賀曽利隆の観文研時代[103]

日向山地の猪狩りと祭り(2)

1986年

 銀鏡神楽の翌日は、「シシバ祭り」と呼ばれる狩法神事がおこなわれる。

 まずは前日のシシトギリで使われたモリの柴を刈る。オタドコのオタギにするためのものだ。オタドコというのは獲った猪をさばく場所のことで、かつては河原をオタドコにすることが多かった。

 大石を2つ置き、そこに木(オタギ)を2本渡して猪をのせ、下から火を燃やす。その火で猪の毛を焼き、竹でこそぐ。

 今ではガスバーナーで焼き、ヤマガラシと呼ぶ小刀でこそぎ、タワシで水洗いをして猪をツルツルにしているが、竹でこそいでいたころは毛が残り、ザラザラしていたという。

 シシバ祭りでは古式にのっとり、河原をオタドコにしているが、シシバ祭りの「シシバ」とはオタドコのことなのである。

 銀鏡を流れる銀鏡川の河原でシシバ祭りはおこなわれるが、そこは毎年決まった場所で、御神石といわれる巨岩がある。不思議なことに、どんな大水が来ても、この御神石だけは流されないという。

 御神石の前に祭壇をしつらえ、米、塩、昆布、煮干、青菜、それと御神酒を供える。焼酎のよく飲まれる米良らしく、御神酒は焼酎だ。

 そして御神石の前で火を焚き、その両側に大石を2つ置き、オタギのうち、長い棒を2本、渡す。それとは直角に横に短い棒を7本、渡す。

 次に銀鏡神楽で奉納された猪の鼻に、ハナギ(鼻木)と呼ぶ曲木を通し、オタギの上にのせて頭の毛を焼く。

 焼きながら、棒の先でこそぎ、銀鏡川の水で洗う。その時、肉に水がかからないようにする。肉に水がかかると、肉の味はガクッと落ちてしまうからだ。

 毛をこそぎ終わると、猪の頭をさばきはじめる。

 最初に左の耳を切り取り、7きれに切る。この左耳を切るというのは、仕とめた猪の舌が口の左側に出ていると、次の猟が早いといわれていることと関係があるようだ。

 7きれに切った左耳は「ナナキレザカナ」と呼ばれる。竹串に刺し、火であぶり、祭壇に供える。

シシバ祭りでは、まず、猪の左耳を切り落とす
シシバ祭りでは、まず、猪の左耳を切り落とす
切り落とした耳を7きれに切り、串刺しにし、祭壇に供える
切り落とした耳を7きれに切り、串刺しにし、祭壇に供える

 シシバ祭りは猪をはじめとする狩猟で獲った鳥獣供養の祭りで、禰宜(ねぎ)が幣(へい)を立て、祝詞(のりと)を上げる。それが終わると御神石に米粒をまき、水と御神酒をふりかける。

 こうして御神石での祭礼が終わると、河原での直会が始まる。猪の頭にはたっぷりと肉がついている。それを切り取って竹串に刺し、塩をふりかけて焼く。それを「ヤキジシ」と呼んでいるが、獣くささはまるでなく。じつに美味なるもの。ふるまわれる焼酎とは絶妙のとり合わせだ。

 カリンドたちは、
「シシ肉は牛肉よりも、よっぽど上等だ!」
 といっているが、それが心底納得できる味なのである。

 焼かずに生のままで食べる肉の味も、ヤキジシに勝るとも劣らない。

 銀鏡での猪肉の食べ方だが、シシズーシやヤキジシ、生肉のほかに、シシ汁にすることが多い。大鍋で大根やコンニャク、豆腐などと一緒に煮込んだもの。

 そのほか味噌漬や醤油漬にしたり、苞巻(つとまき)にして保存食にもする。

 苞巻というのは皮や脂肪分のついたままの猪肉に塩を打ち、藁で巻いたもので、土間などにつるしておくと1年でも2年でももつという。食べる時には塩抜きをする。