賀曽利隆の観文研時代[73]

下関(15)
下関のフグ(2)

1985年

フクのフルコース

 下関の居酒屋「さぶ」で「ふくのフルコース」を食べた。

 まず最初に「ひれ酒」が出た。ふたつきの湯のみ茶わんに、焦げるくらいに焼いたふくのひれを入れ、熱燗の酒をそそいだもの。ふくひれの味がジワッ、ジワッと酒にしみ込んでくる。

 ひれ酒にするのは背びれ、胸びれ、腹びれで、尾びれは使わない。

 ひれ酒には干したトラフクのひれを使うが、最近は品不足の状態で、シマフクやゴマフクのひれも、トラフクのひれと称して出回っている。しかし「さぶ」の女将さんによると、味が全然、違うという。

 ひれ酒を飲んでいる最中に、ふく刺が出た。三枚に下した身をうすく切り、菊の花びらを模したような盛りつけ方で、まるで芸術品のようだ。

 ふく刺はいかにフクの身をうすく切るかにかかっている。それには紅葉おろしと細かく刻んだワケギが添えられている。皿のすみにはフクの皮が盛られている。

 箸をつけるのがもったいないような気もしたが、ひときれつまんで、つけ汁(醤油にダイダイ酢をまぜ、薬味を入れたもの)につけ、口の中に入れた。フクの切り身は淡白な味だが、かみしめるとかすかな甘みがあり、粘り気も出てくる。シコシコした歯ざわりが何ともいえない。

 下関ではこのフクの歯ごたえを「ひきがある」といっている。ひきのあるフクがうまいフクで、トラフク以外のフクだと、このひきがないのだという。皮には身以上にシコシコした歯ざわりがある。

 ふく刺を食べ終わると、こふく揚げが出た。こふく揚げはフクの子を揚げたもので、頭も骨もひれも食べられる。

 こふく揚げの次はふくちり鍋。昆布でだしをとった湯の中に、フクのあらとハクサイ、シュンギク、シイタケ、ミズタケ、豆腐を入れる。それにフクの白子(精巣)を入れることもあるという。

ふく刺
ふく刺
こふく揚げ
こふく揚げ
ふくちり鍋
ふくちり鍋
みかわ
みかわ

 最後にみかわが出た。みかわは文字通り身と皮の間の部分で、それをさっと茹で、紅葉おろしとワケギの薬味をのせ、醤油をかけて食べる。

 こうしてフクのフルコースを食べ終わると「ああ、食った!」と、もう大満足だ。

「さぶ」の看板には「下関で一番安い! ふく料理」とあるが、看板に偽りはなかった。フルコースを食べて5500円。いろいろと話を聞かせてくれた女将さんにお礼を言って店を出た。