旅は数字だ!

『地平線通信』2022年11月号より

●「生涯旅人!」をモットーにしているぼくは、トコトン「旅の記録」の数字にこだわっています。その数字というのは1968年4月12日に始まります。カソリ、20歳の旅立ち。横浜港からオランダ船の「ルイス号」に乗船し、250Cccバイクともどもアフリカ南部モザンビークのロレンソマルケス(現マプト)に渡り、20ヵ月をかけてアフリカ大陸を一周したのです。「ルイス号」は日本を出た最後の南米への移民船。ケープタウンからブラジルのサントス、ウルグアイのモンテビデオに寄港し、アルゼンチンのブエノスアイレスまで行く船でした。

●この「アフリカ大陸一周」(1968年〜69年)が我が旅人生の始まりで、それ以来55年間、ただひたすらに「旅の記録」の数字を追いつづけています。その結果、2022年1月1日現在、バイクで走った走行距離は175万6515キロ、旅した日数は8291日になりました。

●ぼくが本格的に日本をまわり始めたのは、20代も後半になった1975年からのことですが、「峠越え」と「温泉めぐり」を二大テーマにしました。日本を日本らしくしているのは峠と温泉だと考えたからで、峠を越えながら、温泉をめぐりながら日本を見てみようとしたのです。越えた峠の数は1739峠、入った温泉は1982湯(温泉地)になりました。その後、岬もカウントするようになり、351岬になりました。

●このうちの「温泉めぐり」では、2006年11月1日から翌2007年10月31日までの1年間、「300日3000湯計画」と称して、それまでの「温泉めぐり」とは切り離して日本の温泉をめぐりました。日本を8エリアに分け、正味296日間で3063湯の温泉(温泉地)に入ったのです。カソリの温泉のカウントの仕方は温泉地です。たとえば別府温泉や草津温泉といった大温泉地では、どこか1湯でも入れば、それ以上何湯に入ってもカウントされないのです。より広く日本中の温泉地をめぐりたかったのです。この「3063湯」という数字がギネスの世界記録に認定されました。ギネスのロンドンの本部では、「日本という国にはこんなにも温泉があるのか!」と言って驚いたと聞いています。ギネスの世界記録に認定されるためには2人の証人が必要なのですが、そのうちの一人は地平線会議の江本嘉伸さんです。

●記録というのは破られるものですが、このカソリの1年間での「3063湯」というのは永遠不滅だと自信をもって言い切れます。その理由をお伝えしましょう。まずは1年間、フラフラと遊びまわれる人でないとできません。温泉をめぐるので、3063湯分の入浴料(無料湯にも入っていますが)と300泊近い温泉宿の宿泊料金、それと1年間の旅の費用で何百万円もかかります。車では無理です。バイクの機動力があってこそ可能なプロジェクト。つまりバイク乗りのみがチャレンジできる記録なのです。それと体力、気力です。冬の信州の氷点下10度、氷点下20度の寒さの中での温泉めぐりや、真夏の山形盆地での40度越えの中での温泉めぐりはもう地獄。それと温泉を知りつくしている人でないとできません。

●カソリの「旅の記録」の数字はまだまだつづきます。バイク巡礼旅では「四国八十八ヵ所」だけで終わらせずに、「小豆島八十八ヵ所」と、島四国の代表として「伊予大島八十八ヵ所」もまわり、全部で264ヶ所の札所をめぐりました。お大師信仰の次は観音様信仰です。西国33番、坂東33番、秩父34番の日本100観音霊場を巡るとチベットのラサに飛び、ポタラ宮の観音像をお参りするのでした。

●今は「神社めぐり」をおもしろがっています。50代に突入してから始めた全国の「一宮めぐり」ですが、最後に立山に登頂して雄山山頂に祀られている越中一宮の雄山神社御本社と、鳥海山に登頂して山頂直下に祀られている出羽一宮の大物忌神社の御本社を参拝しました。こうして日本の旧国68国の105社をまわりました。一宮は一国一社ではなく、複数社の国もあるのです。「一宮めぐり」を終えると、「式内社めぐり」の開始です。昨年は東北の全式内社をめぐりました。陸奥100社、出羽9社、論社を含め全131社をめぐりました。今年は東北につづいて関東の式内社をめぐっています。

●このような「旅の記録」の数字に徹底的にこだわるカソリですが、『地平線通信』(9月号)の江本嘉伸さんの巻頭言の最後の2行を見て、「いや〜、まいったな」とちょっと困っています。頭から冷や水をぶっかけられたような気分です。みなさんも読まれたように、人生の達人の江本さんは「ついに数字を自慢するおばかな年寄りになったか、と言われそうだが、すみません、何か新しいことを見つけて報告します」と書かれています。ということで、数字を自慢するようになったおばかな年寄りのカソリが原稿を送ります。江本さん、ぼくははめげませんよ。それが「生涯旅人!」の極意。さ〜、バイクの走行距離200万キロ(地球50周分)と、旅の日数1万日を目指すぞ〜!(賀曽利隆)

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