西原の麦食(4)
1986年
甲州の山村、西原の小麦の食べ方はうどんと饅頭だ。
うどんは甲州名物の「ほうとう」のことだが、ほうとうは同じ甲州でも笹子峠を越えた甲府盆地を中心とする国中地方の呼び名で、西原を含めた郡内地方では「煮込み」とか「煮込みうどん」と呼んでいる。
煮込みは小麦粉をこねて打ち、幅広に切り、ゆでずにそのままカボチャ、サトイモ、ダイコン、青菜などの野菜類やタケノコ、キノコ類の入った味噌仕立ての汁の中に入れたものである。
夕食によく食べられる煮込みは、甲州を代表する家庭料理。こねて打った小麦粉を汁のなかにちぎっては入れ、ちぎっては入れていく。うどんの長さも幅もふぞろいである。残った煮込みは翌朝、ふたたび火を通し、朝食の汁にする。
小麦粉からは饅頭も作る。西原名物の「酒饅頭」だ。
その作り方は次のようなものである。
5合(約0・9リットル)の水に1合の大麦のコウジを入れ、さらにご飯を少々、入れておく。すると大麦のコウジの入った水は発酵してブクブクと泡をたててくる。それを上に笊(ざる)をのせた器にあける。笊にはコウジのかすが残り、器には甘酒がたまる。その甘酒でもって小麦粉をこね、半日ほど寝かせて発酵させる。
発酵した小麦粉で饅頭をつくり、中にあんを入れ、蒸籠で蒸す。蒸し上がったものが酒饅頭。小豆のあんを入れることが多いが、野菜を入れたり、川魚を入れることもある。
ここまで西原の畑作物のうち麦に焦点を当て、麦食をみてきたが、米に粟や黍を混ぜて炊く雑穀飯や雑穀粥、そばの湯掻きなどもよく食されていることを最後に付記しておく。