賀曽利隆の観文研時代[83]

岡崎の八丁みそ(4)

1986年

「八丁みそ」の本場だけあって、岡崎には八丁みそを使った料理が数多くある。そんな岡崎の八丁みそ料理を食べ歩いた。

「関東煮」に八丁みそは欠かせない
「関東煮」に八丁みそは欠かせない

 岡崎城内には「木の芽田楽」を名物にしている「八千代」という店がある。堅炭で焼いた豆腐に八丁みそと味醂、砂糖を合わせたタレがよく合っている。その味を木の芽(山椒の若芽)がピリッとひきしめている。

 同じく城内の茶屋では、八丁みその「関東煮」(おでんのこと。関西ではカントウダキだが、岡崎ではカントウニといっている)を名物にしている。木の芽田楽と同じように、チョコレート色をした八丁みそのタレが、関東煮の味を一段とひきたたせている。そのタレは八丁みそに砂糖と水を加え、鍋で焦げないように捏ね上げたものだ。

食堂では八丁みそをすり鉢ですっている
食堂では八丁みそをすり鉢ですっている

 岡崎滞在中は、町の食堂、居酒屋で「八丁みそ料理」を食べた。

八丁みそで煮込んだ「煮込みうどん」
八丁みそで煮込んだ「煮込みうどん」

 八丁みそで煮込んだ「煮込みうどん」は三河のソウルフードのようなものだが、うどんにネギ、エノキ、卵、蒲鉾、油揚げなどの具を入れ、鉄鍋で煮込んだもの。うどんの芯にまで八丁みその味がしみ込み、食べ終わったあとは、その八丁みその味が口の中に快く残っている。これがいいのだ。

「田舎鍋」は豚肉と筍、ネギ、ニンジン、ハクサイなどの野菜類、それにしらたき、蒲鉾、豆腐などを入れ、八丁みそで煮込んだ鍋料理。「どてやき」は、豚の臓物を茹で、それに八丁みそと砂糖を加えて煮込んだものだ。

 家庭料理でも八丁みそを使った料理は多いが、その中でも肉とか魚、野菜、茸、豆腐、油揚げなどを八丁みそでごった煮にする「にみそ」は代表的。

 八丁みそは肉料理にはよく合う。肉のくさみを消し、臓物などもまるで別物のような味に仕立て上げる。

 魚料理にもよく使われる。とくい青ものの魚、イワシとかサバの煮魚といえば八丁みそだ。

 さらに八丁みそには、「焼きみそ」がある。宿の朝食で食べたが、小皿にのった八丁みそをこんがりと焼き、炊きたてのご飯の上にのせて食べる。これがじつにうまい!

宿の朝食に八丁みその「焼きみそ」が出た
宿の朝食に八丁みその「焼きみそ」が出た

 徳川家康は「湯漬けに焼きみそ」と言って、ことのほか焼きみそを好んだといわれるが、「なるほど!」と納得できるような焼きみその味。もちろん茶漬けにしても美味。このような食べ方ができるのも、かたいという八丁みその特性があるからだ。

 岡崎にやってきて、「三河人は体の芯にまで、豆みその味がしみ込んでいる」ということがよくわっかた。

 それだから三河人が他所に行くときは大変だ。豆みそ以外のみそが何日もつづくと無性に故郷の豆みそが恋しくなる。その豆みその代表が八丁みそなのである。