賀曽利隆の観文研時代[52]

常願寺川(20)
滑川のホタルイカ(4)

1985年

 大浦さんは時間をかけて、ホタルイカ漁の定置網の話をしてくれたが、最後に、
「自分の目で見るのが一番だ」
 と言って、翌朝の4時に港に来れば、ホタルイカ漁に連れていってあげるという。

 翌朝、3時に起き、駅前旅館を出発。3時半には滑川漁港前の船小屋に着く。すでにストーブの火が焚かれ、何人かの人たちがストーブを囲んで談笑していた。時間がたつにつれて1人、また1人とやってくる。

 漁民たちの雑談をそれとはなしに聞いていたが、話題は大相撲やプロ野球の結果、隣近所のうわさ話、水橋や四方、新湊など他漁場でのホタルイカ漁の状況といったところである。おもしろいところでは、普段は獲れない若狭や越前の漁港にホタルイカが水揚げされ、それが真夜中のトラック便で滑川の加工業者のもとに運ばれたといった話だ。

 4時を過ぎて、うすぼんやりと夜が明けかかってきた頃、いよいよ出港。エンジン付きの船が、手漕ぎの船を1隻、引っ張っていく。手漕ぎの船には3人が乗っている。

 総勢12人。先にもふれたとおり、全員が70歳以上だが、誰をとってみても70歳を超えているようには見えない。海の男たちはいつまでも若い。

 こうして毎日、早起きをし、たっぷりと潮風に吹かれ、そして新鮮な海の幸を食べているのが若さの秘訣なのであろう。

 定置網の仕掛けられた場所は、海岸から300メートルほどの沖合。2隻の船で、定置網の身網の部分、つまりカガミの方からたぐっていく。身網に入ったホタルイカは、網にふれるたびに神秘的な青白い光を放つ。

 最初の網をあげ終わり、2番目の網を上げる頃にはすっかり夜が明けた。

ホタルイカの定置網漁。定置網の片方からたぐり、タモ網ですくい取る
ホタルイカの定置網漁。定置網の片方からたぐり、タモ網ですくい取る
ホタルイカの定置網を上げ終わる頃、北アルプスに朝日が昇る
ホタルイカの定置網を上げ終わる頃、北アルプスに朝日が昇る

 漁獲量は2統(網)で5ケース(1ケースは約50キロ)。船上でホタルイカとそれ以外の魚に分けられる。とれた魚の中でコハダは捨てられた。もったいないなぁという顔をすると、
「このあたりの漁師は、コハダを食べたなんて言われたら、笑われてしまうよ。東京ではすしネタにするそうだね」

 船上から見る滑川の町越しの立山連峰はすばらしかった。

 真正面に見える朝日岳(2418m)の残雪は、もうそろそろ鯛のような形になるという。そうすると鯛の獲れる季節がやってくる。

 滑川漁港に戻る途中で朝日が昇った。

 富山・長野県境の白馬岳(2932m)の右肩から昇った朝日は、富山湾を赤く染め、立山連峰の残雪を赤く染め、そして船上の漁師のみなさんの顔をも赤々と染めた。