賀曽利隆の観文研時代[49]

常願寺川(17)
滑川のホタルイカ(1)

1985年

 観文研(日本観光文化研究所)の月刊誌『あるくみる聞く』(第114号)の「常願寺川」取材から10年後の1985年には、富山湾のホタルイカ漁を見るため、常願寺川河口近くの町、滑川に行った。これは観文研の企画による『日本の郷土料理・全12巻』(ぎょうせい刊)の取材行である。

滑川でのホタルイカ漁
滑川でのホタルイカ漁

 5月14日、上野発21時01分発の「急行能登」に乗った。車中で目をさましたのは夜明けで、列車は黒部川の鉄橋を渡るところだった。川上に目をやると、まだたっぷりと雪を残した立山連峰が、夜明けの空を背にして、ポッと灯りをともしたかのように浮かび上がっていた。

 4時34分、滑川着。

「急行能登」から降りたのはぼく一人。人通りのまったくない駅前通りを歩き、海岸に出た。そこには小公園があり、ホタルイカの町にふさわしい句碑が建っていた。

  網曳くや
  一瞬光る
  ほたるいか  美夜子

 漁港に急いだ。

 富山湾岸にホタルイカがやってくるのは産卵のためで、漁期は3月1日から8月31日までだ。4月、5月がホタルイカ漁の最盛期。滑川のほかには新湊、四方、水橋、魚津などでとっている。

 ホタルイカは胴の長さが7センチほどの小型のイカ。海岸近くに群れをなして押し寄せてくるときに光るので、ホタルイカの名がある。しかし、ホタルのように点滅はしない。激しく動くほど光が強くなり、そのため浅瀬や網に引き上げられると、一段と強く光を放つ。

 ホタルイカの頭、胴、足には小さな発行器官が数百もある。それらの中でも、目のわきにある5個と第4番目の足の先にある3個が最も大きいという。

 ふだんは北海道や本州沿岸の水深200〜600メートルほどの深海に生息しているが、産卵期になると海岸に近寄ってくる。

 5時。滑川漁港に着くと、ちょうどうまい具合に1隻の漁船がホタルイカ漁から戻ってきた。港で待ち構える業者に、獲れたばかりのホタルイカを手渡す。50キロ入りのケースで全部で6個。それ以外のスズキやヒラメ、コダイ、タチウオなどの獲れた魚は、漁船に乗っていた12人で平等に分配した。それが終わると、船小屋の赤々と燃えるストーブを囲みながらの雑談が始まった。

 漁船に乗っていた12人全員が年寄りで、平均年齢は75歳。最高齢86歳。年を聞いて驚いた。みなさんはそれほどに若々しい。

 ホタルイカ漁について聞いてみた。

 ホタルイカは「ホタルイカ定置」と呼ばれる専用の定置網で獲る。滑川には全部で15統(網)のホタルイカ定置があるが、その漁場というのは昔どおりのものだという。