常願寺川(6)
芦峅寺は立山信仰で栄えた集落。ここには立山信仰の拠点となる雄山神社里宮の中宮祈願殿があるが、芦峅寺という寺はない。「大仙坊」での夕食のあと、宿のおじいさんに立山信仰について聞いた。
「山は神々のいる場所として崇拝されてきました。だから昔はそのような山に入ることは戒められていました。ところが仏教が入ってくると、山には神様、仏様がいるとして、身を清め、心を正しくして山に登り、修行を重ねていくようになったのです。それが修験道の始まりでしょうね。立山は平安時代に開かれたといいます。修験、つまり山伏は立山をかけめぐり、滝に打たれて修行を重ねました」
「大仙坊」のおじいさんはお茶を飲みながら丁寧な口調で話をつづけてくれた。
「越中の立山は駿河の富士山、加賀の白山とともに、『日本三霊山』といわれてきましたが、昔から多くの人たちに敬われた山です。この三霊山はどちらかというと、三名山に近いものかもしれませんね。たぶんに山の高さが関係したと思われます」
富士山は3776m、立山は3015m、白山は2702m。日本一の富士山はもちろんのこと、立山も白山もともに日本有数の高峰だ。
富士山は駿河と甲斐の境、白山は加賀と飛騨の境の山だが、おじいさんの感覚では駿河の富士山、加賀の白山になるのであろう。
「大仙坊」のおじいさんは小柄な方だったが、座ると大きく見え、威厳を感じさせた。話が上手で、知識が豊富で、おじいさんの話すそばからメモをとらせてもらった。