『地平線通信』2020年10月号より
●『地平線通信』の2月号ではみなさんに、「これから10年計画で日本の国府をめぐります!」と宣言しました。国府とは日本の旧国の中心地。有言実行のカソリ、さっそく4月からスズキの150ccバイク、ジクサーを走らせて「国府めぐり日本一周」を始めました。まずは「北海道一周」。蝦夷地の北海道は明治2年(1869年)、従来の七道(東山道・東海道・北陸道・山陰道・山陽道・南海道・西海道)にならって「北海道」と改称され、石狩、後志、渡島、胆振、日高、十勝、釧路、根室、北見、天塩の10国に分国されました。国境を徹底的に意識して北海道を一周したのですが、狩勝峠や石北峠、根北峠などの峠名はそれぞれの国名の合成名です。北海道にはその後、11国目の千島国ができましたが、残念ながら千島国には渡れません。それにしても4月の北海道は猛烈な寒さ。何度となく雪に降られました。
●つづいて「東北一周」です。東北は陸奥と出羽の2国からなっていますが、まずは陸奥の国府へ。仙台市には国分寺と国分尼寺があります。国分寺跡にはかつての国分寺の回廊が復元されています。隣接する多賀城市の多賀城跡が陸奥の国府跡で、現在も発掘調査がつづけられています。その近くに総社の陸奥総社宮があります。国府と国分寺、総社の3点セットを見つけ出し、見てまわるのが「国府めぐり」のおもしろさなのです。国分寺は男僧用の国分僧寺と女僧用の国分尼寺から成っていますが、多くの国分寺跡には現行の国分寺が建立されています。もちろん、かつての国府時代のような国営の寺ではありませんが。
●総社は難しいです。多くの総社は消えていますが、陸奥総社宮のように現在でもしっかりと機能している総社もあります。陸奥の「国府めぐり」の最後は、塩竃にある陸奥の一宮の鹽竈神社です。鹽竈神社の参拝を終えると、青森に向かっていきました。
●青森からは日本海側を南下し、出羽の国府をめぐりました。秋田市内の護国神社に隣接する秋田城跡が出羽の国府跡です。ここでは国庁(今でいえば県庁)の一部が復元されています。雄物川の近くには、欅の大木が茂る出羽総社神社があります。秋田から県境を越えて山形に入ると、出羽の一宮、大物忌神社を参拝し、酒田郊外の城輪(きのわ)柵跡に行きました。ここも出羽の国府跡です。秋田の国府が酒田に移ったのです。
●ここでは復元された国庁を見ました。この城輪柵跡というのは、日本海東北自動車道の「酒田みなとIC」のすぐ近くにあります。今までに何度となくこのICを使っていますが、気がつきませんでした。このように「国府めぐり」をすると、知らなかった日本が見えてくるのです。山形市内の馬見ヶ崎川の河畔には、出羽国分寺の薬師堂が建っています。出羽の国府は酒田からさらに山形に移ったのでしょうね。
●「関東一周」では関東を1都6県で見るのではなく、旧国の8国で見てまわりました。まずは千葉県。東京から千葉街道の国道14号で江戸川を渡ると市川市に入ります。この市川が下総の国府所在地です。JRは市川駅ですが、京成は国府台(こうのだい)駅。この国府台駅の近くが下総の国府跡になります。総社跡もあります。すこし離れたところには国分寺跡と国分尼寺跡もあります。下総の国府所在地の市川から、上総の国府所在地の市原へ。JR八幡宿駅近くの飯香岡八幡宮は上総の総社です。市原市役所を挟んで、国分寺跡と国分尼寺跡があります。
●市原から房総半島を南へ。東京湾フェリーの出る金谷港を過ぎると、明鐘岬をトンネルで抜けるのですが、この岬が上総と安房を分けています。安房の国府所在地は館山です。館山の鶴谷八幡宮は安房の総社、国道128号沿いには安房国分寺があります。国府跡はみつけにくですが、地名が教えてくれます。
●館山市から南房総市に入ったところが「府中」。宝珠院という寺がありますが、このあたりが安房の国府跡だといわれています。総社の鶴谷八幡宮も元々は府中にありました。このあと安房の一宮の洲崎神社と安房神社を参拝。一宮もセットでまわっているので、上総の一宮の玉前神社、下総の一宮の香取神宮まで足を延ばしました。下総、上総、安房の国府を一宮をからめてまわると、「房総半島一周」になるのです。
●関東8国の「国府めぐり」では、相模の国府所在地の大磯から国道1号で箱根峠へ、上野の一宮の貫前神社から国道254号で内山峠へ、上野の国府跡、総社跡、国分寺跡の前橋から国道17号で三国峠へ、下野の国府跡、国分寺跡、総社跡の栃木から国道4号で福島県境へ、常陸の国府跡、総社跡、国分寺跡の石岡からは国道6号で福島県境まで行って折り返しました。こうして「関東境」まで行ってみると、関東の広さを実感できるのです。
●「関東編」を終えると「中部編」、「関西編」、「四国編」で、中部編16国、関西編16国、四国編4国をめぐりました。9月の「中国一周」では中国編12国をめぐりました。あとは「九州一周」の12国を残すのみです。10月には「九州一周」に出発する予定なので、10年がかりの「国府めぐり」は半年で終えられそうです。「国府めぐり日本一周」を終えても、さらに旧国にこだわって日本を見てまわりたいと思っています。日本はおもしろい。旧国にこだわると、よりおもしろくなりますよ。(賀曽利隆)