2024年10月26日

世久見峠の思い出

 10月26日6時30分、「湖上館PAMCO」を出発。Vストローム250SXのエンジン音を響かせながら、早朝の水月湖畔を走る。気分爽快。県道216号から国道162号に入り、世久見峠へ。ゆるやかな峠でトンネルを抜け出ると世久見に下り、世久見漁港の岸壁でSXを止めた。

 この難なく越えた世久見峠は、「温泉めぐりの日本一周」(2006年〜2007年)の時には最大の難所になった。

 2007年2月2日。

 この日は8時30分、越前玉川温泉の「玉川ビューホテル」を出発した。朝から雪がちらちら降っていた。越前温泉の「日本海」、河野シーサイド温泉の「ゆうばえ」、敦賀きらめき温泉の「リラ・ポート」の湯に入り、敦賀からは国道27号で小浜に向かった。その頃から雪の降り方は激しくなった。DJEBEL250XCでの雪道走行だ。

 若狭に入れば雪はやむのではないかと期待したが、まったくのその逆で、旗護山を貫くトンネルを抜け出た若狭は大雪の様相。越前側よりもはるかに激しく雪が降っていた。

 バサバサ降りつづく雪はヘルメットのシールドにへばりつき、全く前方が見えなくなった。ぬぐっても、ぬぐいきれるような雪ではない。裸眼で走ると、雪が目に突き刺さってくる。我慢できないほどの痛みだった。

 除雪車が出動していたが、除雪したそばから路面にはどんどん雪が積もってしまう。国道27号は幹線国道なので、そんな激しい雪にもかかわらず、大型トラックが雪を蹴散らして疾走していた。なんとも危険な状況。バックミラーを見ながら後続車がやってくるたびに路肩に逃げ、車の流れが途切れたところで本線を走るという繰り返しだ。

 こうして、かろうじて三方のみかた温泉「きららの湯」にたどり着いた。「きららの湯」で生き返った。しかし湯から上がると、もうまったく身動きがとれなくなってしまった。国道27号をこれ以上走るのは「もう無理だ」と判断した。

「雪の中を走る」のと「雪が降っている中を走る」のでは、全然違う。自分自身がやられるのはまだしも、自分が原因で事故が起きることだけは、絶対に避けなくてはならない。「果報は寝て待て」で、こういうときは寝るに限る。休憩室で「5分寝」。そのおかげでひらめいた。

 三方から小浜までは国道27号ではなく、海沿いの国道162号を行こうと思いついたのだ。路面の雪ははるかに多くなるだろうが、そのかわり交通量はぐっと減るはずだ。大雪との悪戦苦闘の連続になるだろうが、すくなくとも自分のペースで走れる。つまり、自分が転倒して痛い目にあっても、ほかの車に迷惑をかけることはない。そう決めると、気持ちがスーッと楽になった。

 国道162号の雪との戦いが始まった。雪が深くなると、足をつきながら走った。しかし、大きな難所が待ち構えていた。世久見峠だ。峠を貫くトンネルの見える地点まではなんとか登れたが、あと50メートルほどの地点でスタックし、リアのタイヤは空転するばかり。まったく前進できない。DJEBEL250XCを降りて押し上げるのだが、アイスバーンの上に雪が積もっているので、ツルツル滑って力が入らない。

「う〜ん、ここまでか…」

 雪の峠越えを諦めかけたが、「よし、もう一度。もう一度、チャレンジしてみよう!」という気になった。

 ギアを1速か2速に入れ、渾身の力を込め、半クラッチを使いながらすこしづつ押し上げていく。氷点下の気温にもかかわらず、噴き出す汗でウエア内はグショグショビショビショ状態。ヒーヒーハーハー、肩で大きく息をする。心臓が口から飛び出しそうになるほどの苦しさ。そしてついに50メートルの坂を登りきり、トンネルに入った。

 峠のトンネルを抜け出ると、今度は恐怖の下り。ツーーーーーッと滑ってしまうので、路肩の雪の中に前輪を突っ込むような形でそろりそろりと下っていく。これでもう、後戻りはできなくなった。なにがなんでも国道162号で小浜まで行くしかないのだ。

 さすが「強運カソリ」、一発勝負に勝った。その先もきつ+2 かったが、小浜に近づくにつれて雪は小降りになり、路面の雪も少なくなっていった。

 17時40分、小浜に到着。小浜駅前でDJEBEL250XCを止めると、ホットの缶コーヒーで乾杯。みかた温泉「きららの湯」から小浜駅前までは28キロ。その28キロに2時間以上もかかった。