賀曽利隆の観文研時代[36]

常願寺川(4)

滑川から見る立山連峰
滑川から見る立山連峰

 昭文社の分県地図「富山県」を見ながら、どのようにして常願寺川の流域をまわろうかと考えた。富山平野よりも立山の山中の方がおもしろそうだ。称名川には日本一の大滝の称名滝がかかっている。和田川には黒四ダムの黒部湖よりも大きいダム湖の有峰湖がある。どちらも見てみたい。

 富山の市街地の向こうに連なる雪の立山連峰の写真を見たことがある。立山は何と神々しい山なのだろうと感動した覚えがあるが、雪の立山連峰も見てみたい。

 常願寺川にはバイクで行こうと決めたのは12月に入ってからのことだ。

 常願寺川の上流はすでに雪道になっていることだろう。でもいい。そんな雪道をバイクで走って行こう。ぼくはバイクが好きだし、バイクでなら自由にまわれる自信があった。

 1975年12月2日午前3時、ホンダのXL250に乗って東京を出発。その日は厳しい寒さで、バイクのハンドルを握る手はジンジン痛くなってくる。甲州街道の国道20号を西へと走ったが、大垂水峠を越えて神奈川県に入る頃には体の芯まで冷え切ってしまう。24時間営業のガソリンスタンドをみつけると無意識のうちにバイクを止め、しばらくストーブにあたらせてもらった。

 神奈川県から山梨県に入る頃には白々と夜が明けた。あたりは一面、霜で真っ白。笹子峠下では、河原での焚火をみつけるとあたらせてもらい、山の端から朝日が昇るまで火にかじりついていた。

 長野県に入り、甲州街道終点の諏訪に着いたのは昼近く。寒さのため何度も休んだので時間がかかってしまった。諏訪から塩尻峠を越え、松本に着いたのは昼過ぎ。富山はまだまだ遠い。

 松本からは大町を通って新潟県の糸魚川へ。

 糸魚川からは日本海沿いの国道8号を走って富山県に入った。ここまでの道のりは長かった。やっとの思いで富山県に入ったというのが実感だ。

 国道8号を進むにつれて狭かった海岸の平地は広くなり、やがて見渡す限りの平野になった。富山平野だ。その平野の端に立山連峰の山々が連なっている。山の上の方はすでに雪で白い。

 黒部、魚津、滑川を通って富山に近づくにつれて、国道8号の交通量は増えていく。立山の山麓に向かうために、常願寺川の手前で国道8号を左折。その頃には日が暮れる。夕日が富山平野に沈むと、立山連峰は残照を浴びて薄桃色に染まった。