第4回目(16)2012年3月10日 – 21日

岩手県から青森県に

 3月19日。夜明けとともに起き、朝湯に入った。朝食は古山夫妻と一緒に食べた。

 ひと晩中降った雪は明け方には止んでいて、まずはひと安心といったところだ。

 朝食を食べ終わったところで古山夫妻と別れ、8時、「グリンピア三陸みやこ」を出発。ありがたいことに青空が広がっている。

 V−ストローム650を走らせ、国道45号へ。この間の雪は心配したほどでもなかった。ところが国道45号を北上するにつれて路面の雪はあっというまに多くなった。

 下り坂が恐怖。速度を落として走り、ツルンツルンのアイスバーンでは足を着きながら走った。

 岩泉町の小本を通り、田野畑村に入っていく。

 いよいよ最大の難関、国道45号の最高所にもなっている閉伊坂峠に挑戦だ。

 長い登りがつづく。雪との大格闘の連続。気温は0度近いのだが、暑くて暑くて汗が噴き出るほど。峠の頂上に到達したときは思わず「ヤッタ!」のガッツポーズ。

 しかし峠道の下りは、登りよりもさらに大変だ。たえずバックミラーで後続車を確認しながら走った。後続車がやって来るといったん路肩に避け、車の流れが途切れたところでふたたび峠道を下った。

 ありがたいことに閉伊坂峠を下ると雪は消えた。

 普代村、野田村と国道45号の路面に雪はなかった。

 普代村では海岸地帯を走った。

 漁港は巨大な防潮堤に守られ、その内側の民家にまったく被害は出ていない。防潮堤や水門が破壊されたり、大津波が防潮堤を乗り越えたりして大きな被害の出た現場を各地で見てきたので、ここではホッと救われるような思いがした。

 とはいっても、ここでも相当な高さまで津波が押し寄せている。漁港近くの川沿いの山肌には、津波の駆け上った痕跡がはっきりと残され、20メートルぐらいの高さまで樹木はなぎ倒されていた。

 国道45号沿いの普代村の中心、普代の町では津波の被害は見られなかった。

 野田村は大きな被害を受けた。

 海岸の堤防は破壊され、海岸から離れている町並みのかなりの家が倒壊、260人もの犠牲者を出した。ここでは押し寄せる津波よりも、引き波によってさらわれたという。何もかも、すべてを海に持っていかれたほどの引き波の強さだという。そんな中にあって国道45号沿いの道の駅「のだ」は無事だった。

 野田からは海沿いの県道268号を行く。久慈市に入り、小袖海岸へ。ここは日本最北の海女漁の地。海女センターがあったが、津波で流されたのか、浜からは消えていた。小袖海岸のきれいな海岸線を行く。狭路のカーブ、トンネルが連続するので対向車が怖い。断崖が海に落ち込む海岸線を抜け出ると久慈の町。久慈には30メートル超の大津波が押し寄せたが、人的被害は死者・行方不明者6名。これは奇跡的な数字といっていい。

 久慈の国道45号にも雪はなかった。

 久慈から国道45号を北上し、岩手県から青森県に入った。

 国道45号から海沿いの県道1号を行く。

 JR八戸線の線路を渡ったが、すぐ近くの階上駅から八戸駅までは列車が動いている。太平洋岸では久々に見る運行中の鉄道。ピカピカに光っている線路が新鮮に見えた。

 県道1号沿いでは海岸スレスレに建っている家々が無事だ。集落もまったく無傷のように見える。風光明媚な種差海岸を北上。葦毛崎の展望台に立ち、蕪島(陸地とつながっている)へ。蕪島周辺は津波にやられているが、大きな被害というほどではない。ウミネコに占領されている蕪島神社を参拝し、そのまま県道1号で八戸の中心街に入っていった。

 八戸も大津波に見舞われ、臨海工業地帯に大きな被害が出たが、県道1号沿いではまったく津波の被害は見られない。八戸はいつも通りの活況を見せている。海鮮市場もにぎわっている。東北・太平洋岸の北の拠点、八戸はそれほど大きな被害を受けなかったので、東北復興の大きな力になっている。

 八戸の中心街で国道45号に合流し、国道45号→国道338号で下北半島に向かっていく。

 下北半島入口の三沢では国道を右折し、三沢漁港に行った。ここでも7メートルの大津波に襲われたとのことで漁業施設には大きな被害が出ていたが、海岸からかなり離れている三沢の市街地は無事。三沢を過ぎると、大津波による被害はほとんど見られなくなる。

 天気が急変した。

 空は鉛色に変わり、雪が降り出す。雪はあっというまに激しさを増し、猛烈な西風が吹きはじめ、吹雪になった。V−ストローム650がフワーッと舞い上がりそうになるほどの風の強さ。走るどころか、吹き飛ばされないようにするので精一杯だった。

 ラムサール条約の登録地にもなっている仏沼まで行ったところで尻屋崎を断念。何とも悔しいことだが、この地点を最後に東京に戻ることにした。尻屋崎まであと100キロ。ゴーゴーと吹き付ける吹雪の中で立ち尽くし、3月の東北の自然の厳しさをあらためてかみしめた。

 三沢まで戻ると、「三陸温泉」(入浴料250円)の湯に入り、湯から上がると休憩室で昼食。koshiさんからの差し入れの魚肉ソーセージやチーかま、ぴり辛ちくわ、温泉卵を食べた。これは朝、「グリンピア三陸みやこ」を出ようとすると、V−ストローム650のハンドルに掛けられたビニール袋に入っていたもの。手紙と先日の写真も添えられていた。最後にカンコーヒーと「リポビタンD」を飲み、出発。カンコーヒーもリポDもkoshiさんの差し入れだ。koshiさん、ありがとう!

 三沢から八戸に戻ると雪は止み、何事もなかったかのように青空が広がり、日が差していた…。

 15時20分、八戸北ICで八戸道に入った。この時点では八戸道→東北道で一気に東京まで走るつもりでいた。

 ところが3月の東北はそれほど甘くはなかった。軽米ICを過ぎた頃から雪が降りはじめ、九戸ICを過ぎるとかなり激しい雪になった。路面はあっというまに白くなる。恐怖の雪の高速道路。

「これはもうダメだ…」
 と路肩に出、ハザードランプを点滅させて走った。

 次の一戸ICで高速を降り、国道4号を南下。雪は一段と激しさを増す。

 とにかく転倒しないように走ったが、ここでの最大の難所は国道4号最高地点の十三本木峠(中山峠)。この十三本木峠を決死の覚悟で越えた。我ながらよく越えられたと思うほどの雪の峠越えだった。

 沼宮内、渋民と通り、盛岡市内に入るともう大雪の様相。国道4号は真っ白だ。

 からくも盛岡駅前に到着。駅前の「東横イン」に飛び込みで泊まれたときは、「助かったー!」と心の中で叫んだ。無事にここまで来れて、ほんとうによかった。

 雪が激しく降っているので、夕食は盛岡駅前の地下街で。盛岡に来たからにはと、「寿々花」という店で「盛岡冷麺」(900円)を食べた。

 3月20日。夜明けとともに雪の盛岡を歩いた。チラチラ雪が降っている。北上川にかかる開運橋を渡ったところでは凍った雪道に足を滑らせ、たてつづけに2度も転倒した。バイクでなくてよかった。

 目抜き通りの商店街を抜け、南部藩20万石の盛岡城址を歩き、花の季節にはまだほど遠い「石割桜」を見て盛岡駅前に戻った。

「東横イン」の「おにぎり&せんべい汁」の朝食を食べ、9時に出発。

 いつもならば遅くても8時には出るのだが、出発時間を1時間遅らせたのはすこしでも雪がとけてから走り出そうと考えたからだ。

 9時出発は大成功。その間に天気が変わり、青空が広がり、日が差してくる。路面の凍りついた雪は早くもシャーベット状になっている。このあたりが、いくら寒いとはいえ、冬の雪と春の雪の違いだ。

 盛岡駅前から国道4号に出ると、もう路面に雪はない。前日とはうってかわって、V−ストローム650での快適走行だ。

 10時45分、花巻に到着。

 花巻では宮沢賢治命名の北上川の「イギリス海岸」を見る。雪解け水を集めた北上川は増水しているので、ドーバーのホワイトクリフ(白い断崖)を連想させる「イギリス海岸」とはほど遠い風景。そのあと丘陵地帯にある「宮沢賢治記念館」(入館料350円)を見学した。ここでは地元のライダー、和田福助さんに出会った。

 和田さんには「カソリさん、頑張って!」と応援され、「魚肉ソーセージ&リポビタンD」の差し入れをもらった。和田さん、ありがとう!

 花巻からさらに国道4号を南下。

 前沢では前沢温泉「舞鶴の湯」(入浴料500円)に入り、「牛の博物館」(入館料400円)を見学。そのあと博物館前のレストラン「ロレオール」で前沢牛を食べる。一番安いメニューの「前沢牛の南部鉄器焼き」を注文したのだがそれでも4000円…。

 前沢では相馬で会った武内さん一家とのうれしい再会。

 武内さん一家の乗った車と一緒に平泉まで走り、中尊寺を参拝した。そして平泉の駅前で武内さん一家と別れた。

 18時、一関ICに到着。

 東北道に入り、一路東京へ。東京までは一気に走るつもりでいた。

 ところが宮城県に入り、仙台を過ぎた頃から雪が降り始めた。3月の東北は、最後の最後まで甘くはなかった。

 白石を過ぎるとかなりの雪になる。またしても恐怖の雪の高速道路…。

 必死の思いで国見峠を越えて福島県に入ったが、峠を下った国見ICで高速を降り、国道4号を南下した。

 福島、郡山、須賀川と通り、雪が止んだところで白河ICで再度、東北道に入った。

 関東に入ると見上げる夜空は一面の星空。24時、東北道の浦和料金所に到着。盛岡から542キロ。ここからは首都高→東名で神奈川県の伊勢原へ。

 我が家に到着したのは2時過ぎ。V−ストローム650での全走行距離は2775キロになった。これにて「鵜ノ子岬→尻屋崎2012」の第1弾目は終了だ。

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