30年目の「六大陸周遊記」[080]

[1973年 – 1974年]

ヨーロッパ編 3 バルセロナ[スペイン]

ジムとの出会い

 バルセロナ駅前のツーリスト・インフォメーションは9時になったら開くとのことだった。しかし9時を過ぎても開く気配はまるでなく、誰も来ない。いらいらしながら開くのを待っていたのはぼくだけではなかった。

 もう1人、年代物のザックを背負い、重そうなズタ袋を抱えた老人がいた。老人の頭はすっかり禿げ上がっている。それがぼくとイギリス人の旅人、ジムとの出会いだった。

「いったい、いつになったら開くんでしょうね」

「さっき、駅の案内所で聞いてみたけど、9時だといっていたよ。だけどスペインという国はすべてがこの調子で、このぶんだと10時頃ではないかな」

 ところが10時になっても誰も来ない。

 駅員に聞いてみると、
「おかしいですねえ。いつもだったら9時に開くのだけど…」
 というばかり。

「仕方ないな。もう1時間、待とう」
 ということになって、ジムと駅のカフェテリアに入った。

生涯旅人!

 バルセロナ駅のカフェテリアで聞いたジムの話はじつに興味深いものだった。

 彼の歳はなんと75歳。現役の旅人だ。

 ジムは60過ぎだろうとは思っていたが、70歳をはるかに過ぎているとは…。

 1年半ほどカナリア諸島に滞在し、船でバルセロナにやってきた。

 彼の使っているザックは第1次大戦中、イギリス軍が使ったものだという。彼の靴には大きな穴があき、ズボンも上着もほころんでいて、長旅を感じさせた。

 ジムは10代の頃から船乗りになり、船で世界各地の港をめぐった。それが彼の旅の第1歩。船乗りで旅の資金を貯めると、ザックを背負って2年、3年と大陸から大陸への旅をつづけ、お金がなくなるとまた船に乗るという繰り返しをしてきたという。

「これからもずっと、ずっと旅をつづけたい。一生涯、旅をつづけたいね。これほどおもしろいことはない。旅の空の下で死ねたら本望だ」
 という「生涯旅人」ジムの衰えることのない旅への情熱には胸を打たれた。

 ジムはバルセロナ発ロンドン行きの安いバスがあると聞いて、その詳しい情報を得ようとツーリスト・インフォメーションにやってきた。彼にとっては久しぶりのイギリスへの帰国となる。

旅は道連れ

 11時になっても開く気配のないツーリスト・インフォメーションにあいそうをつかし、ジムはバルセロナの旅行代理店をまわってみるという。我々は会った瞬間から気が合い、ぼくはジムについていくことにした。

 バルセロナの町を歩き、旅行代理店をみつけると、ロンドン行きの安チケットのバスを聞いてみたが、ジムが思っているほどの安いバスはなかった。

 ジムはロンドン行きのバスを諦めたようで、
「地中海のアレニスという町にユースホステルがある。5年ほど前に行ったことがあるのだけど、けっこう良かったよ」
 と言い出した。
「旅は道連れ」。

 ジムと一緒に電車に乗って、アレニスまで行くことにした。