道祖神の「賀曽利隆と走る！」［16］

韓国往復縦断 2005年

　2005年の5月から、バイクで韓国に行けるようになった。これはすごいことだ。我らツーリングライダーにとって、韓国が身近な国になった。さっそく道祖神の「賀曽利隆と走る！」シリーズの第11弾目で「韓国縦断」に旅立った。

行くぞ、釜山へ！

　2005年10月8日、神奈川県伊勢原市の自宅前で愛車のDR−Z400Sにまたがると、「さー、行くぞ、釜山へ！」と西の空に向かって叫んでやった。

　旅立ちで、これほど高揚した気分になることもそうはない。

　期待で胸が膨れ上がり、秦野中井ICで東名に入っても、「釜山へ、釜山へ！」と何度も「釜山」が口をついて出た。まわりを走っている車、1台1台に、「これから、このバイクで、釜山まで行くんですよ〜！」といいたくなるほどだった。

　東名→名神と走りつないで大阪へ。大阪では鶴橋のコリアンタウンの食堂で冷麺を食べたが、韓国ツーリングへの期待がいやがうえにも盛り上がる。

　韓国では徹底的に韓国食を食べ歩くつもりだ。

　冷麺を食べたあとは、大阪南港19時10分発の名門大洋フェリー「ふくおか2」で新門司港へ。翌朝の8時には新門司港に着いた。

　まずは九州最北端の岬の部崎に立ち、午前中は北九州をまわった。そして関門海峡を渡り、昼過ぎに関釜フェリーの出る下関港国際ターミナルに到着。いよいよ釜山が間近になった。

　韓国へのバイクの持ち込みが解禁されたのは2005年5月のことだ。これは歴史的な出来事といっていい。韓国は「近くて遠い国」とよくいわれるが、我らツーリングライダーにとって韓国は「かぎりなく遠い国」だった。韓国にバイクを持ち込むのは不可能だったからだ。

　カソリはそれに風穴を開けた。JTBの全面的な協力を得て、韓国政府からの特別な許可をもらい、2000年にバイクを韓国に持ち込んだ。そして「韓国一周」を成し遂げた。帰国するとすぐさま、多くのライダーのみなさんから韓国解禁要望の署名をもらい、韓国政府に送った。それがこの歴史的な韓国解禁につながった。

　韓国解禁によってパスポートと国際免許証、バイクの国際登録証を持てば、日本のナンバープレートそのままで、下関港から関釜フェリーに乗り、バイクともども韓国の釜山港に渡れるようになった。新たな海外ツーリングの幕開けだ。新たな時代の到来といっていい。それを記念しての道祖神の「賀曽利隆と走る！」シリーズ第11弾目の「韓国縦断」なのである。

　集合場所の下関港国際ターミナルには、参加者のみなさんが日本各地から次々にやって来た。最年長は73歳の松浦善三さん。山形県東根市からGL1500のサイドカーで1400キロ走っての到着。松浦さんは「一生に一度は自分の家から海外にバイクで行くのが私の夢だったんですよ」と熱く語った。

　マジェスティーの島田利嗣さんは62歳。一緒に「南部アフリカ」、「サハラ縦断」を走った仲間。東京から日本海ルートで、2泊3日のツーリングを楽しみながら下関までやってきた。

　XLRバハの「しんちゃん」こと新保一晃さんとは「カソリと走る！」シリーズのうち、「ユーラシア横断」を皮切りに、「アラスカ縦断」、「南部アフリカ」、「サハラ縦断」を一緒に走っている。

　XRバハの伴在哲さんとは、「サハリン縦断」を皮切りに、「ユーラシア横断」、「南部アフリカ」を一緒に走っている。

　セローの椋原眞理さんは母親だとは思えないほど若く見える。児玉真喜子さんはタンデムでの参加。こうして全部で11台のバイクと「道祖神」の菊地優さん、女性通訳の国定富さんの総勢13名で「韓国縦断」を走るのだ。

　下関港での出国手続きはスムーズに終わった。イミグレーションではパスポートに「KANMON（関門）」の出国印が押され、カスタム（税関）ではバイクの一時輸出入申告書に下関税関の輸出許可印が押された。

　関釜フェリーの「はまゆう」（1万6187トン）に乗船。「はまゆう」は定刻の19時に下関港のフェリー埠頭を離れていく。さっそく自販機の500ミリリットルの缶ビールで参加者のみなさんと乾杯。無税になるので1本220円！

　関釜フェリーの「はまゆう」は、釜山港を目指して玄界灘を行く。冷たい風に吹かれながら甲板に立つと、暗い波間に漁火が点々と見えた。「おー、何だ何だ、あれは！」と思わず声が出るくらいの異様な明るさだ。

　波の荒い玄界灘なので船はかなり揺れた。しかし、まったく船酔いしない「船旅大好き人間」のカソリにとっては、その揺れはなんとも心地のよいもので、ぐっすり眠れた。

　揺れがおさまったころ目がさめた。時間は午前2時。窓の外を見ると、まばゆいばかりの釜山の町明かり。「はまゆう」は釜山港の港外に停まっていた。すぐ近くには五六島の灯台の灯。関釜フェリーの下関から釜山までの正味の航行時間は8時間ほどでしかない。

　翌朝、8時に「はまゆう」は釜山港のフェリー埠頭に接岸。岸壁にDR−Z400Sで降り立ったときは「やったね。ついに釜山に着いた！」という気分。

　釜山港でも、それほど時間がかからずに入国手続きを終えた。税関を出て、国際フェリーターミナル前に11台のバイクをズラズラッと並べたときは、何とも晴れがましい気分になった。

記念すべき第１食目は「ソモリ・クッパ」

「道祖神」の菊地さんと通訳兼ガイドの国定さんの乗った車の先導で、我々は釜山の町を走り始める。バイクに乗りながら、ハングルの看板やヒュンダイ、デーウ、キアなどの韓国車を見ると、海を渡って韓国にやってきたという実感がする。釜山の渋滞にはまると、手を振ってくれたり、「イルボン（日本）か？」と、声をかけてくれる人もいる。

　釜山を走り抜け、国道14号に入ったところでカソリが先頭を走り、サポートカーが最後尾についた。バックミラーに映る10台のバイクの長いラインを見ると、胸がジーンとしてくる。

　国道14号沿いの食堂で昼食。記念すべき「韓国縦断」の第1食目。ここでは「ソモリ・クッパ」を食べた。牛の頭でダシをとった白っぽい色のスープ。その中にご飯が入っている。辛味はまったくない。濃厚な牛のエキスが舌に残る。日本でもおなじみのクッパだが、「ソモリ・クッパ」はまさに韓国食。韓国ならではのクッパにうれしくなる。

　韓国最大の財閥、ヒュンダイの企業城下町、蔚山からは国道7号を北上。慶尚南道から慶尚北道に入る。新羅の都、慶州では仏国寺や古墳公園、東洋最古の天文台の「瞻星台」を見てまわった。

　釜山から150キロの浦項で泊まった。夕食は焼肉パーティー。ビールや焼酎を飲みながら焼肉を腹いっぱい食べた。これぞ韓国。みなさんとの話もおおいにはずんだ。

　翌朝はホテルの6階の部屋からすばらしい日の出を見る。浦項は製鉄の町。世界でも最大級の製鉄所（POSCO）の高炉を赤々と染めて朝日が昇った。

　浦項からは海沿いの国道7号を北上。蔚珍を過ぎたところで慶尚北道から江原道に入る。国道7号沿いの食堂で昼食。ビビンバを食べた。日本と違うところは具の入った器とご飯の入った器が別々に出てくることで、自分でご飯を入れ、かきまぜて食べる。器も箸も匙もすべて金属。この金属製3点セットが韓国の食文化を象徴している。

　三陟、東海、江陵と通り、北緯38度線を越え、釜山から450キロの束草に到着。夕食は名物の海鮮料理。食後、漁港近くの露店を歩き、イカやエビのフライを肴にみなさんと焼酎を飲んだ。これはよかった！

　束草では海辺のホテルに泊まったが、翌朝は日本海の水平線に昇る朝日を見た。

　朝食はホテルの近くの食堂。ご飯と干しダラ入りの汁のほかにキムチやメンタイコ、塩辛、ノリなど全部で9品のおかずが出た。これらは食べ放題。最高にうまい白菜のキムチを何度もおかわりできるのが韓流だ。

　束草から国道7号をさらに北へ。杆城を通り、釜山から520キロ走り、ついに韓国最北端の高城統一展望台に到着。すばらしい天気で展望台から朝鮮半島第一の名山、金剛山の峰々が一望できた。

　澄みきった秋空を背にして、主峰群がくっきりと見える。金剛山の分水嶺を境にして西側は外金剛、東側は内金剛といわれ、その山並みが海に落ちたところが朝鮮半島随一の海岸美を誇る海金剛になる。

　これらはすべて北朝鮮側になる。

　2001年の北朝鮮ツーリングでは金剛山に登り、海金剛の絶景を眺めた（この時の写真も合わせて見て下さい）。こうして高城統一展望台から北朝鮮側を見下ろしていると、「次は北朝鮮一周だな」と、新たな旅への夢が頭の中を駆けめぐっていく。

2001年の北朝鮮ツーリング