『地平線通信』2012年11月号より
●今年の夏、正確にいうと、7月19日のことです。スズキの650ccバイク、V−ストローム650を走らせて下北半島を一周しました。下北半島一周を終えると、半島付け根の野辺地から青森に向かったのですが、その途中で事件は起きました。夕日に向かって突っ走っていると、突然、「止まれ」の赤旗を持った警官が飛び出してきたのです。「あー、やった!」と思ったときは時すでに遅しで、37キロオーバーで捕まりました。30キロ以上での速度違反は6点で一発免停。カソリ、16歳で免許をとってから50年目にして初の免停です。
●じつはそれ以前にも一度、免停になりかかったことがありました。そのときは累積で7点になって、二俣川(神奈川県の運転免許試験場)に呼び出されました。免停を覚悟して出頭したのですが、びっくりしたことに、「あなたは免許取得以来、一度も事故を起こしていないので、今回に限って免停を猶予します」といわれたのです。累積での免停なので免停猶予処分にしてもらえました。ただし1年間、無違反ならばという条件つき。それもあって、まるで逃げるようにして、半年間の「オーストラリア2周7万2000キロ」の旅に出ました。
●ところが今回は一発免停なのでそうはいきません。軽微な違反ならば青切符を切られ、罰金を銀行とか郵便局で払えばそれですみますが、一発免停は赤切符で、そのあとが大変です。8月28日に横浜の根岸公園近くにある神奈川県警交通安全センターに行き、受講料を払って講習を受け、最後の試験に合格すると30日の免停期間は1日で済みました。9月19日には厚木の区検に出頭し、違反の状況を説明。「いやー、その通りでして。間違いありません。ほんとうに申し訳ありません」と、「申し訳ない」を連発。その1週間後には厚木簡易裁判所から「被告人を罰金60000円に処する」との判決文と納付書が送られてきました。郵便局で6万円を払い込んでやっと事件は1件、落着。ホッとしましたよ。
●今年の秋、正確にいうと、10月7日のことですが、スズキの400ccバイク、DR−Z400Sで本州を縦断。浜松から国道1号を走りました。20時過ぎに静岡駅前を通過。清水に近づいたところで、左側のラーメン店の駐車場から乗用車が飛び出してきたのです。そのときの恐怖感といったらありません。これは右直事故(右折車と直進バイクの衝突事故)と並ぶバイクでの死亡事故の典型。車の方も固まってしまい、走行車線に出たところで止まってしまったのです。同じような目にあったら、おそらく100台のバイクは100台が車に激突したであろう状況ですが、カソリ、この瞬間でも目をつぶることなく、「絶対に車にはぶつけない!」という必死の気持ちで前輪、後輪の急ブレーキをかけました。人間の思いというのは奇跡を呼ぶものです。後輪がフワッと浮いた状態でバイクは車を飛び越え、路面にたたきつけられました。このとき、車に激突していたら大怪我間違いなしでしたが、車のボンネットの上を飛び越えたので助かりました。体はバイクの左側に飛び、左側の頭部から路面にたたきつけられました。その瞬間、無意識のうちに左手をつき、右肘と右膝で受身をとっていたのです。
●全身を強打したので、猛烈な痛みが体を突き抜けていきます。国道上にうずくまり、ほとんど動けない状態でした。すぐさま救急車とパトカーがやってきました。日本国内で救急車に乗るのも、警察の世話になる事故を起こしたのも、免許をとって50年目にして初めてのことになります。救急車の車内では頭を強く打っているということで、頭と首を固定された状態で検査されました。すると血圧が信じられないことに190まで上昇していて、救急隊員の「これは危ない!」という声が耳に残りました。
●静岡日赤病院に収容されると、すぐさま全身のCTスキャンをとられました。その結果、心配された頭、首の損傷はまったくないとのことで、まずはひと安心。意識もしっかりしていました。左手首の骨も折れていなかったのです。時間がたつにつれて痛みの箇所は収れんされ、血圧も正常値に戻りました。右肘の傷は結構、深いとのことで、5針縫われました。静岡日赤病院でのすべての検査、治療が終ったのは23時頃。その間、静岡南警察署の警官はずっと病院の外で待ってくれていて、警察車両で事故現場に戻りました。そこでの現場検証が終った時には、午前0時を過ぎていました。
●ここからがカソリ、すごいのです。DR−Z400Sは相当のダメージを受けていましたが、エンジンはかかり、ライトも割れていません。それをいいことに、警官に「このままバイクに乗って帰ってもいいですかねぇ」と聞くと、「気をつけて」との返事。全身の痛みをこらえてバイクにまたがり、国道1号で沼津へ。沼津からは国道246号で伊勢原に向かいました。自宅に戻ったのはまだ夜明け前で、何事もなかったかのように布団にもぐり込みました。寝返りを打つたびに、あまりの痛さに「ヒェー!」と声が出ましたが、妻には気づかれなかったようです。「余計な事は言わない!」、これがカソリの鉄則なので、事故の件は一切、妻には話しませんでした。それにしても一発免停、救急車に乗車、警察のお世話になった事故と、「50年目の初体験」3連チャンは、過ぎてしまえばどれもが我が旅を彩るドラマになってくれました。感謝、感謝です。(賀曽利隆)