カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記

温泉めぐり日本一周[8]

投稿日:2017年6月22日

東の横綱、草津温泉へ

関東編 8日目(2006年11月8日)

 松ノ湯温泉「松渓館」の朝湯から上がると、納豆、目玉焼き、塩ジャケ、海苔、オクラ、漬物といった朝食を食べる。朝食を食べながら女将さんの話を聞いた。女将さんは鳩ノ湯温泉で生まれたとのことで、須賀尾峠を越えて松ノ湯温泉にお嫁に来た。温川温泉、鳩ノ湯温泉、薬師温泉の浅間隠温泉郷の3湯と、松ノ湯温泉、川中温泉の2湯は、交流があって、会合もあって、深いつながりがあるという。

 松ノ木温泉「松渓館」を出発。国道145号に出ると長野原へ。長野原からは吾妻川支流、白砂川沿いの国道292号→国道405号を走り、野反峠を目指す。強烈な寒さ。晩秋というよりも、もう冬の寒さだ。スズキGSR400のハンドルを握る手は寒さでジンジン痛んでくる。道路沿いの電光表示の温度計では六合村役場あたりの気温は5度だったが、花敷温泉まで来ると2度。おそらく日の出前は氷点下だったことだろう。野反峠を登るにつれてさらに寒くなった。

 国道405号の野反峠に到達。中央分水嶺の野反峠からの眺めはすばらしい。目の前の野反湖は透き通った青空を映して吸い込まれるような青さ。この水は日本海へと流れていく。反対側を眺めると関東の山々を一望。はるか遠くには富士山の頭だけが見える。野反峠は富士見峠ともいわれている。この30年間で10回以上は野反峠に来ているが、峠から富士山を見るのは初めてのことだった。

 野反峠の「峠返し」で下ると、温泉めぐりを開始する。

 第1湯目は野反峠下の花敷温泉。ここでは「関晴館本館」の湯に入った。高台の石造りの露天風呂に入っていると、猛烈な眠気に襲われる。「眠いときには寝る」、これがぼくの旅の鉄則。湯から上がると、近くの空地にGSR400を止め、そのわきで雨具を枕にゴロ寝した。「15分寝」だ。体を横にして3秒で熟睡モードに落ちた。1、2、3で眠りに落ちるときは、ぼくはそれを「秒寝」といっている。眠りに落ちてからぴったり15分後には目が覚めた。べつに目覚ましは使わない。この短時間睡眠はじつによく効く。「夜寝」の1時間分、いや2時間分ぐらいはあると思っている。

 目覚めのさっぱりした気分で第2湯目の尻焼温泉へ。ここには3軒の温泉宿があるが、尻焼温泉といえば何といっても川をせきとめた大露天風呂。さっそく自然そのものといった湯につかる。川底から湯がぶくぶく湧き出ている。まさに「尻焼」で、その上に尻をのせると、「アチチチッ!」。川原には屋根つきの混浴露天風呂もあるが、これも無料湯。尻焼温泉から花敷温泉に戻ると、国道292号沿いの温泉をめぐる。

 第3湯目は湯ノ平温泉「松泉閣」の湯。国道沿いの駐車場にGSX400を止めると、歩いて谷底へと下り、吊り橋を渡ると、宿を目指して登っていく。いったん宿に上がると、今度は階段を下って谷底の露天風呂へ。駐車場から露天風呂までは15分ほどかかる。目の前の白砂川の清流を眺めながら露天風呂の湯につかる。無色透明の湯で源泉は71度という高温湯。風が強く、落葉が露天風呂に浮かんでいる。

 第4湯目は応徳温泉「くつろぎの湯」。道の駅「六合」に併設された温泉施設なので入りやすい。大浴場は総ガラス張りで明るい。ガラス越しに周囲の山々を眺める。湯から上がると、隣り合った道の駅「六合」の「しらすな」で昼食。「ざるうどん」を食べた。しっかりとした腰のあるうどん。さすが「うどん大国・群馬」だけのことはある。

 第5湯目の六合赤岩温泉「長英の隠れ湯」に入り、長野原に戻った。

 長野原からは国道145号→国道292号で第6湯目の草津温泉へ。草津温泉といえば日本の温泉番付の横綱級。東の横綱が草津温泉だとすると、西の横綱は別府温泉だ。草津温泉では温泉街の中心にある草津温泉のシンボル、湯畑前の共同浴場「白旗乃湯」に入った。超熱めの湯。とてもではないが長湯はできない。「入っては出、入っては出」を繰り返した。かつての草津温泉といえば「時間湯」で知られていた。医者に見離されたような不治の病人がこの猛烈に熱い湯に、「時間湯師」の指導で湯につかり、多くの病人が奇跡の回復を成しとげた。そんな「時間湯」の草津温泉を思わせるような「白旗乃湯」の熱さ。草津温泉には全部で18湯もの共同浴場があるが、そのすべてが「白旗乃湯」と同じような無料湯。このあたりが草津温泉のすごさといっていい。共同浴場の数の多さ、入浴料の安さは温泉地の格付けの絶好のバロメーターになっている。

 草津温泉から渋峠へ。上州と信州との境の渋峠に到達すると、震え上がるような寒さ。標高2172メートルの渋峠は日本の国道最高所の峠だ。そんな渋峠の「峠返し」で来た道を引き返し、第7湯目の万座温泉「万座プリンスホテル」の湯に入る。ここは標高1800メートルの高所の温泉。ガタガタ震えながら、露天風呂の白濁色の湯につかった。

 長野原に戻ると国道145号→国道144号を行く。

 第8湯目は半出来温泉「登喜和荘」の湯。内風呂と露天風呂はともに濁り湯で白濁した湯の色。露天風呂のわきには2つの樽湯。左側の樽には源泉が流れ込んでいる。ジャスト適温で長湯できる。湯から上がると国道144号の反対側にある食堂の「松坊」で「かつ重」を食べた。店内では薪ストーブが赤々と燃えていた。

 第9湯目の嬬恋温泉「つまごい館」に泊まった。JR吾妻線の終点、大前の駅前温泉旅館。改築した新しい木造の建物だ。部屋もきれいで広々としている。すぐさま湯に入る。温めの湯なので長湯できる。内風呂、露天風呂ともに木の湯船。ここはどうしても泊まりたかった温泉だ。

 ぼくは20歳のときにスズキTC250を走らせ、2年間をかけてアフリカ大陸を一周した。22歳になって日本に帰ってきたとき、無性に日本をまわりたくなった。そこで約1ヵ月をかけ、鈍行列車を乗り継いで本州を旅した。そのときに吾妻線に乗って完成まもない大前駅までやってきた。その当時、温泉宿はなかったが、駅前の線路わきに木枠の露天風呂があった。学校帰りの小学生たちがその湯に入っていたので、一緒に入らせてもらった。湯から上がると、ホームに停車していた渋川行きの列車に飛び乗った。ここはそんな、涙が出るほどなつかしい温泉。嬬恋温泉「つまごい館」の湯につかっていると、40年近くも前の思い出が鮮やかに蘇ってくるのだった。

本日のデータ 料金等は当時のものです
朝食 松ノ湯温泉「松渓館」 ご飯、納豆、目玉焼き、のり、塩ジャケ、オクラ、漬物、味噌汁
8時 宿を出発
野反峠(峠返し)
第57湯目 花敷温泉「関晴館本館」(500円)
第58湯目 尻焼温泉「天然大露天風呂」(無料湯)
第59湯目 湯ノ平温泉「松泉閣」(500円)
第60湯目 応徳温泉「くつろぎの湯」(400円)
昼食 「道の駅 六合」 「ざるうどん」(700円)
第61湯目 六合赤岩温泉「長英の隠れ湯」(400円)
第62湯目 草津温泉の共同浴場「白旗乃湯」(無料湯)
渋峠(峠返し)
第63湯目 万座温泉「万座プリンスホテル」(1000円)
第64湯目 半出来温泉「登喜和荘」(400円)
夕食 半出来温泉の食堂「松坊」 「かつ重」(800円)
19時40分 宿に到着
第65湯目 嬬恋温泉「つまごい館」(1泊朝食7500円)
本日の走行距離数 154キロ
本日の温泉入浴数 9湯

松ノ湯温泉「松渓館」の朝食国道405号の紅葉野反峠に到達

松ノ湯温泉「松渓館」の朝食 国道405号の紅葉 野反峠に到達

野反峠からの眺め花敷温泉「関晴館本館」花敷温泉「関晴館本館」の露天風呂に入る

野反峠からの眺め 花敷温泉「関晴館本館」 花敷温泉「関晴館本館」の露天風呂に入る

尻焼温泉尻焼温泉の大露天風呂湯ノ平温泉の紅葉

尻焼温泉 尻焼温泉の大露天風呂 湯ノ平温泉の紅葉

湯ノ平温泉「松泉閣」の露天風呂に入る応徳温泉「くつろぎの湯」応徳温泉「くつろぎの湯」に入る

湯ノ平温泉「松泉閣」の露天風呂に入る 応徳温泉「くつろぎの湯」 応徳温泉「くつろぎの湯」に入る

「道の駅 六合」の「ざるうどん」六合赤岩温泉「長英の隠れ湯」草津温泉の湯畑

「道の駅 六合」の「ざるうどん」 六合赤岩温泉「長英の隠れ湯」 草津温泉の湯畑

草津温泉の共同浴場「白旗乃湯」国道292号から草津温泉を見下ろす群馬・長野県境の渋峠に到達

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日本の国道最高地点の碑万座温泉への道万座温泉から見る夕景

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