カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記

『地平線通信』(第29回目)(2012年8月号より)

投稿日:2021年3月9日

「継続」、これが一番、大事なこと

●いよいよ記念すべき第400回目の報告会ですね。積み重ねてきた重さとでもいうのでしょうか、「400」の数字には驚かされてしまいます。それを前にしての第399回目の報告会はすごい盛り上がりでした。地平線会議の歴史に新たな1ページをつけ加えたかのようです。いつもの東京・新宿の会場を離れ、30余名の参加者が7月28日午前9時50分に福島駅西口に集合。マイクロバス2台、バイク3台、車2台で南相馬に向かっていくシーンは壮観でした。ぼくはその時、ふと「大人の修学旅行」の言葉が頭に浮かびましたよ。●出発時に手渡された『飯舘村、南相馬市の現場を見、考える地平線行動』の小冊子には感動しました。よくぞこの日に間に合わせて作りましたね。今の地平線会議の実力の一端を見る思いがしました。小冊子づくりにたずさわった新垣亜美さんは「江本さん宅でエモカレーを食べて、エモバーガーを食べて、エモサラダを食べたら手伝わされてしまった」と笑ってました。それには参加者のプロフィールものっていて、今回の報告会を盛り上げるのに一役も二役もかっていました。●阿武隈山地を越え、南相馬の旧小高町をめぐり、夕暮れ時に到着した旧鹿島町の上條さんの施設はよかったですね。まわりの山々のしたたる緑は目に染みるようでした。「おー、これぞ、東北!」というような阿武隈山地の緑でした。ミーティングでの参加者のみなさんの一言一言は心に残りました。翌朝は夜明けとともに起き、1時間ほど山中を歩いたのですが、「カナカナカナ」という鳴くヒグラシの蝉時雨がすごかったです。その日は何と「相馬野馬追」の日。武者行列、甲冑競馬、神旗争奪戦を見ることができました。これはもう「地平線会議」のドラマです。それだけに参加者のみなさんとの別れには辛いものがありました。●ところでカソリは、7月28日に福島駅西口に行くのに、7月13日に東京を出発しました。スズキの650ccバイク、V−ストロームを走らせ、「鵜ノ子岬→尻屋崎」を走ったのです。鵜ノ子岬というのは東北太平洋岸最南端の岬、尻屋崎は東北太平洋岸最北端の岬です。福島県の浜通りから宮城県南部の海岸地帯を通り、塩竃、石巻から三陸海岸を北上していきました。岩手県では釜石を過ぎると、大槌町、山田町と大津波に襲われて壊滅的な被害を受けた2つの町がつづきますが、この大槌と山田の違いには大きなものがあります。大槌は町役場が津波の直撃を受けて全壊。町長をはじめ町役場の職員の多くを失くしました。それに対して山田は町自体は大槌同様全壊したものの、高台にある町役場は残りました。司令塔を失った大槌と、司令塔の残った山田、隣合った2つの町はあまりにも対照的でした。●山田の町役場の隣には八幡宮があります。参道の入口には「津波記念碑」。1933年3月3日の昭和三陸大津波の後に建てられたものです。それには次のように書かれています。
 1、大地震のあとには津波が来る。
 1、地震があったら高い所に集まれ。
 1、津波に追はれたら何所でも此所位高い所へ登れ。
 1、遠くへ逃げては津波に追い付かれる。
         近くの高い所を用意して置け。
 1、懸指定の住宅適地より低い所へ家を建てるな。
●山田の町役場はこの「津波記念碑」の教えを忠実に守り、それと同じ高さのところに建っているので無傷でした。ところが山田の中心街は「津波記念碑」の教えを無視し、それよりも下に町を再建したので、明治三陸大津波、昭和三陸大津波にひきつづいて平成三陸大津波でも、町が全壊してしまったのです。●山田から「日本の秘境」の重茂半島に入っていきました。本州最東端のトドヶ崎の入口が姉吉漁港です。ここは今回の大津波で38・9メートルという波高を記録した所です。漁港は大津波に飲み込まれ、大きな被害を受けましたが、姉吉の集落は無傷で残りました。姉吉にも「津波記念碑」が建っていますが、それには「ここより下に家を建てるな!」とあります。明治三陸大津波、昭和三陸大津波で集落が全壊した姉吉は、その「津波記念碑」の教えをしっかりと守り、すべての家が「津波記念碑」よりも上に建てられているのです。そのおかげで今回の40メートル近い大津波に襲われても、1人の犠牲者を出すこともなく、1軒の家を流されることもなかったのです。姉吉から山道を1時間ほど歩くと本州最東端のトドヶ崎に出ますが、東北一のノッポ灯台の白さと目の前に広がる太平洋の海の青さが目に染みました。●岩手県から青森県に入り、尻屋崎まで行くと、下北半島を一周して青森へ。青森から南下。いったん東京に戻ると、今度は東北の玄関口、白河に行き、そこを出発点にして福島県内の中通り、会津、浜通りをめぐったのです。会津では田島を拠点にして南会津を一周しましたが、その途中では酒井富美さんの民宿「田吾作」に泊まりました。奥羽山脈の峠越えや奥州街道の宿場めぐりは心に残りました。磐梯吾妻スカイラインや磐梯吾妻レークライン、磐梯山ゴールドラインは現在、無料開放中なので、これら3本の絶景ラインをV−ストローム650で思う存分に走り回りました。高原の爽やか空気を切っての走行はたまらなかったです。こうして5000キロ余を走り、7月28日に福島駅西口に到着したのです。●記念すべき第400回目の報告会を前にして、第1回目からの報告会のシーンが次々に目に浮かんできます。初期の頃の会場、東京・青山の「アジア会館」がなつかしく思い出されてきます。これといったテーマが見つけられず、夏の納涼大会をやったこともありましたよね。「地平線会議」を立ち上げたメンバーの1人、宮本千晴さんの「とにかく続けることだ」の一言が今、鮮明によみがえってきます。「継続」、これが一番、大事なことのような気がします。第400回はあくまでも一里塚。ここまで続けてきたのだから第500回目、第1000回目を目指しましょう。今、「地平線会議」をおもしろがっている人が次の人たちに伝えていく、これは「地平線会議」発足時からの基本的な姿勢です。(賀曽利隆)

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