カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記

『地平線通信』(第2回目)(2008年2月号より)

投稿日:2021年1月5日

2008年南米縦断旅!

●1月28日、「南米・アンデス縦断」の旅から帰ってきました。全行程は1万2500キロ。400ccのオフロードバイク、スズキDR−Z400Sで走ってきました。●今回の出発点はペルーの首都のリマ。「ナスカの地上絵」で知られるナスカからアンデス山脈の4000m級の峠を越え、「インカの都」クスコへ。「空中都市」のマチュピチュ遺跡を見たあと、チチカカ湖畔を通り、ボリビアへ。世界最高所の首都ラパスからボリビア高地を南下、ウユニ塩湖のウユニからアタカマ高地を越えてチリに入りました。そこはアタカマ砂漠。一木一草もない砂漠が延々と続きます。アタカマ砂漠を南下し、コピアポの町を過ぎるころから緑が見え始め、やっと砂漠は尽きました。●チリの首都サンチャゴから太平洋側を南下。南緯40度線を越え、オソルノからアンデス山脈のプジェウエ峠を越え、アルゼンチンに入りました。南米屈指の観光地、バリローチェから南下し、烈風のパタゴニアに突入。「犬が空を飛ぶ」といわれるほどですが、空を飛ぶ鳥は羽をパタパタさせるだけで、むなしくも押し戻されてしまいます。バイクは横風を受けると道路の右端を走っていても、あっというまに左端まで飛ばされてしまいます。「バイクが空を飛ぶ」ような、そんな風の強さでした。●憧れのマゼラン海峡をフェリーで渡り、九州よりも大きなフェゴ島に上陸。世界最南の町、南緯55度のウシュワイアに到着すると、海岸に立ちつくし、ビーグル海峡を渡る冷たい風に吹かれるのでした。真夏だというのに、町のすぐ近くまで迫る山々は雪に覆われていました。ウシュワイアからは大西洋を北上し、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスから日本に帰ってきたのです。●今回の「南米」は20余年ぶり。1984年から85年の「南米一周」以来のものです。20余年間の南米の変化をまざまざと見せつけられました。どの国も経済的に発展し、政情は安定し、治安も良くなり、じつに旅しやすい国々になっていました。チリの太平洋側を貫く国道5号は全線が高速道路に変わり、パタゴニア縦断のルートも交通量がぐっと増えていました。観光客の増加には驚かされるほどでした。ペルーでは「ナスカの地上絵」を空から見る遊覧飛行機が頻繁に飛び、人気度抜群の世界遺産のマチュピチュ遺跡には行列ができるほどでした。アルゼンチンのモレノ氷河の展望台は押すな押すなの大盛況。チリのトレッキングのメッカ、パイネ国立公園には世界中から大勢の人たちが来ていました。世界最南の町ウシュワイアは一大観光地になり、連日、港には何万トンもの豪華大型客船が入港していました。●20余年前の「南米一周」(1984年〜1985年)のときのペルーは大変でした。当時リマの治安の悪さといったらコロンビア級。「ペンション・ヤマモト」という日本人宿に泊まったのですが、宿の前に停めた車はわずか10分ほどで、4本のタイヤ、全部を盗まれてしまいました。宿の主人からは夜の町には絶対に出ないようにといわれたほどでした。その「ペンション・ヤマモト」も今はなくなっていました。●政情もきわめて不安定で、反政府軍の「センデロ・ルミノソ(輝ける道)」と政府軍の激しい戦闘がアヤクーチョ県でつづいていました。その中を強行突破したのです。とある村で泊まったときは、政府軍の兵士に村の食堂に連れていかれ、「ここで寝るように」といわれたのです。食堂の入口にはテーブルやイスが積み上げられ、「銃撃戦になっても、絶対に動いてはいけない、頭を上げてはいけない」ときつくいわれたのが印象的でした。●当時の南米の経済は最悪で、とくにボリビアでは猛烈なインフレに見舞われていました。物価の上昇は何パーセントなどいうものではなく、2倍、3倍…と一気に上がっていったのです。銀行で100ドルを両替したときは唖然としました。札束がドサッと、まるで山のように積み上げられてぼくの目の前に置かれたのです。アルゼンチンもそれに近い状態で、年率何百パーセントという猛烈なインフレ。まさに経済危機のまっただ中でした。●今回の「南米・アンデス縦断」を走りながら、何度となく20余年前の「南米一周」を思い返しました。まるでミラクルでも見るかのように、すっかり忘却のかなたにあった「南米一周」の記憶がじつに鮮明に蘇ってくるのです。これが今回の「南米・アンデス縦断」の一番の収穫といえるかもしれません。と同時に128日間で4万3400キロを走った1984年から1985年の「南米一周」が、じつに価値あるもののように思われてくるのでした。(賀曽利隆)

「南米・アンデス縦断」でペルーを南下。ここは「地上絵」で知られるナスカ

「南米・アンデス縦断」でペルーを南下。ここは「地上絵」で知られるナスカ

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