カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記

奥の細道紀行[78]

投稿日:2016年12月23日

神事は続く

福井県敦賀市/2009年
敦賀

 その夜、月殊に晴れたり。「明日の夜もかくあるべきにや」といえば、「越路の習ひ、なほ明夜の陰晴はかりがたし」と、あるじに酒勧められて、気比の明神に夜参す。仲哀天皇の御廟なり。社頭神さびて、松の木の間に月の漏り入りたる、御前の白砂、霜を敷けるがごとし。往昔、遊行二世の上人、大願発起のことありて、自ら草を刈り、土石を荷ひ、泥ていをかわかせて、参詣往来の煩ひなし。古例今に絶えず、神前に真砂を荷ひたまふ。これを遊行の砂持ちと申しはべる、と亭主の語りける。

  月清し遊行の持てる砂の上

 十五日、亭主のことばにたがわず雨降る。

  名月や北国日和定めなき

『おくのほそ道』

 芭蕉が敦賀に到着した夜はすばらしい天気。満月とほとんど変らない十四夜の大きな月が出た。芭蕉は敦賀では、福井から同行してくれた洞哉(等栽)と仲秋の名月を見るのを大きな楽しみにしていたので、「明日もこんなにいい天気になるだろうか」と泊まった「出雲屋」の主人に聞いてみた。だが宿の主人に「越路の習ひ、なお明夜の陰晴はかりがたし」(北陸の常として、天気が変わりやすいので、明日の夜は晴れるかどうかわかりませんよ)といわれて一抹の不安を感じてしまう。そのような芭蕉の様子を見て宿の主人は酒を勧たのだろうか。

 芭蕉はそのあと「気比の明神」に夜詣りする。「どうぞ明日の夜は晴れますように!」と願ったのかもしれない。芭蕉はそれほど仲秋の名月を見たかった。

「気比の明神」とは越前の一宮、気比神宮のこと。ここは北陸の総鎮守にもなっている。神社の境内には神々しさが漂っている。松の木の間から月光が漏れ差している様は、神前の白砂にまるで一面に霜が敷かれたかのように見えると、芭蕉はいっている。

 芭蕉はここでは気比神宮にまつわる昔話に思いを馳せているる。それが「お砂持ち神事」の由来にもなっている故事だ。

 正安3年(1301年)、時宗2代目遊行上人の他阿真教が諸国巡錫の際、敦賀に滞在した。その当時、気比神宮の西門前の参道とその周辺は沼地だった。この時代、気比神宮のすぐそばまで入江だった。

 参拝者が難儀している様子を見ると、上人自ら先頭に立ち、神官や多くの氏子らと一緒になって浜から砂を運び参道などの改修にあたったという。それにちなんで今日まで、時宗の本山、遊行寺(神奈川県藤沢市)の管長が交代するときは、「お砂持ち神事」がおこなわれている。

「自ら草を刈り、土石を荷ひ、泥ていをかわかせて、参詣往来の煩ひなし。」とはそのことをいっている。大通りをはさんで気比神宮の前に建つ像を見ると、そのときの様子をうかがい知ることができる。「古例今に絶えず、神前に真砂を荷ひたまふ」とあるように、芭蕉の時代にも「お砂持ち神事」はしっかりとおこなわれていたのだ。

  月清し遊行の持てる砂の上

 これも「お砂持ち神事」を詠んだ句である。

 芭蕉が敦賀で一番、期待したのは、ここで洞哉(等栽)と一緒に仲秋の名月を見ることだった。だが十五日は「出雲屋」の主人がいうように天気は崩れ、なんと雨模様…。芭蕉はさぞかしガッカリしたことだろう。

 それが「名月や 北国日和 定めなき」の名句になっている。

 

 敦賀では敦賀駅前の「東横イン」に泊まり、翌朝は朝食を食べ、敦賀駅前を出発。スズキST250を走らせ、気比神宮へ。大鳥居をくぐり抜けて拝殿に参拝。そのあと境内の芭蕉像を見る。そこには「月清し 遊行の持てる 砂の上」の句碑も建っている。最後に大鳥居に戻り、大通りを渡ったところにある「お砂持ち神事」の像を見るのだった。

敦賀駅前の「東横イン」の朝食

▲敦賀駅前の「東横イン」の朝食

敦賀駅前を出発

▲敦賀駅前を出発

敦賀の中心街を通る国道8号

▲敦賀の中心街を通る国道8号

気比神宮の大鳥居

▲気比神宮の大鳥居

気比神宮の拝殿

▲気比神宮の拝殿

気比神宮の芭蕉像

▲気比神宮の芭蕉像

気比神宮の芭蕉句碑

▲気比神宮の芭蕉句碑

気比神宮の「お砂持ち神事」像

▲気比神宮の「お砂持ち神事」像

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