カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記

奥の細道紀行[75]

投稿日:2016年12月17日

芭蕉ゆかりの永平寺だが

福井県永平寺町/2009年

 丸岡を出発した芭蕉は、九頭竜川右岸の鳴鹿に通じる鳴鹿道を行く。末政、板倉と通り、為安で鳴鹿道を右に折れ、九頭竜川を渡って松岡の城下に入っている。松岡からは永平寺に参詣して松岡に戻り、福井へと向かっている。

天龍寺・永平寺

 丸岡天龍寺の長老、古き因あれば尋ぬ。また、金沢の北枝という者、かりそめに見送りて、この所まで慕ひ来る。所々の風景過ぐさず思い続けて、をりふしあはれなる作意など聞こゆ。今すでに別れて臨みて、

  物書きて扇引きさくなごりかな(余波哉)

 五十丁山に入りて、永平寺を礼す。道元禅師の御寺なり。邦畿千里を避けて、かかる山陰に跡を残したまふも、貴きゆゑありとかや。

『おくのほそ道』

 芭蕉さんにはほんとうに申し訳ないのだが、ここでは誤記を指摘しなくてはならない。

 冒頭に「丸岡天龍寺」とあるが、丸岡(現坂井市)ではなく松岡(現永平寺町)なので、正しくは「松岡天龍寺」となる。丸岡と松岡は「街道の達人」の芭蕉が間違えるほどに紛らわしい。なお前回ふれたように曽良の「随行日記」では丸岡が森岡になっている。

 芭蕉は松岡で金沢から一緒に旅してきた北枝と別れるが、それはおそらく永平寺の参拝を終えたあとのことであろう。

 松岡の天龍寺の境内には「余波(なごり)の像」が建っている。芭蕉が北枝に別れの句を書いて渡している像だ。その隣りには「物書きて扇引きさく余波哉」と彫り刻まれた句碑も建っている。

 

 さて、芭蕉の足跡を追うカソリは丸岡城の見学を終えると、スズキST250を走らせて松岡へ。「芭蕉道」の県道17号を行く。鳴鹿の手前で県道110号に入り、九頭竜川を渡って松岡の町中に入っていく。

 九頭竜川は越前の大河だ。源は美濃との国境の油坂峠。つまり源から河口までが越前一国になる。

 松岡は松岡藩5万石の城下町。今でも古い家並みが残っている。禅宗の天龍寺は藩主、松平家の菩提寺。芭蕉は「天龍寺の長老、因あれば尋ぬ」といっているが、その長老とは住職の大夢和尚のことで、もともとは江戸・品川の天龍寺の住職だった。その当時からの知り合いということなのだろう。

 松岡の天龍寺から国道416号→国道364号で永平寺へ。ここは曹洞宗の大本山。大勢の観光客がやってくるが、観光ズレしていないところがすごいところだ。今だに多くの修行僧たちの修行道場になっている。そのあたりが京都などの観光寺との大きな違いといっていい。

 緑濃い参道を歩き、山門をくぐると、若い修行僧の案内で永平寺を見てまわる。若い僧はていねいに永平寺を説明してくれるのだが、最初から最後まで、ついに「芭蕉」への言及はなかった。永平寺の境内にも「芭蕉」がらみの案内や碑、芭蕉像などは見られなかった。「奥の細道」ゆかりの地なのに…。

 江戸・深川から越前・永平寺に来るまでは数々の「奥の細道」がらみの案内板や碑、芭蕉像、芭蕉句碑、芭蕉資料館などを見てきたが、ここには何もない。芭蕉をまったく無視しているかのようにみえる永平寺に、かえって新鮮さというか驚きを感じるのだった。

 永平寺から松岡に戻ると、国道416号で福井へ。その間は10キロ。里数でいえば二里半でしかない。芭蕉は松岡で北枝と別れたあと一人で福井に向かったが、この「二里半」は「奥の細道」の全行程五百余里の中では特別な区間といっていい。唯一、芭蕉の一人旅の区間なのである。

 江戸・深川を旅立った芭蕉は、山中温泉まで門人の曽良と一緒だった。

 山中温泉からは北枝と一緒に松岡までやってくる。この先、福井から敦賀までは洞哉、敦賀から結びの地の大垣までは路通が同行している。

 ST250だとあっというまに走ってしまう「松岡→福井」間では、「この間は貴重なんだ!」と、自分で自分にそういい聞かせるのだった。

丸岡を出発

▲丸岡を出発

松岡の古い家並み

▲松岡の古い家並み

松岡の天龍寺

▲松岡の天龍寺

天龍寺の「余波の像」

▲天龍寺の「余波の像」

天龍寺の芭蕉句碑

▲天龍寺の芭蕉句碑

永平寺の参道

▲永平寺の参道

永平寺の参拝者入口

▲永平寺の参拝者入口

永平寺の法堂

▲永平寺の法堂

永平寺の境内

▲永平寺の境内

永平寺の案内図

▲永平寺の案内図

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