カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記

環日本海ツーリング[130]番外編

投稿日:2012年7月24日

ソウル→北朝鮮2001(3)

東海港を出港

 東海港の岸壁には現代商船の「ヒュンダイ・クンガム(現代金剛)号」(2万7000トン)が接岸していた。真っ白な船体の大型客船。岸壁に13台のバイクを並べ、1台づつクレーンで甲板につり上げる。バイクをのせるのは初めてのことなので船員たちはとまどっていたが、メンバー全員で協力し、無事に13台のバイクを積み終えた。
 イミグレーションでパスポートに出国印をもらい、北朝鮮入国の許可証を首からぶらさげ、「ヒュンダイ・クンガム号」に乗船。
 19時、出港。
 レストランでのバイキング形式の夕食を終えると、ミーティングルームでの北朝鮮入国に際しての説明会が始まった。この船には500人あまりの金剛山登山の韓国人も乗っている。観光客は船が長箭港に着くと、専用バスで金剛山に向かっていくのだ。
 ミーティングでいわれた事項は次のようなことだった。
(禁止事項)
 1、長箭港の写真を撮ること
 2、移動中のバスから軍事施設や兵士、住人の写真を撮ること
 3、移動中のバスから風景の写真を撮ること
 4、北朝鮮人ガイドの写真を撮ること
 5、移動が禁止されている物の運搬
 6、指定場所以外に巻きタバコ、紙くず、空きビン、ビニール袋を投げ捨てること
 7、指定場所以外での喫煙
 8、指定以外のトイレと風呂の利用
 9、旅行者用施設を傷つけたり、破壊すること
 10、自然環境を傷つけたり、汚すこと
 11、岩や木をスケッチすること
 12、植物、岩石、土壌を採取すること
 13、動物を捕まえること
 14、山火事を起こすこと
(持ち込み禁止の品物)
 1、10倍を超える倍率の双眼鏡や望遠鏡
 2、160ミリを超えるレンズを付けたカメラ
 3、24倍を超える倍率のビデオカメラ
 4、個人的な医療目的以外の内容が記述されたラベルが付帯する怪しい物
 5、旅行目的に反する印刷物、写真、カセットテープ
 6、韓国通貨
 7、ニセ札
 8、医学的な意図をともなわない毒物、薬、有毒な薬品
 9、武器、銃弾、爆発物、放射能物質
 10、引火性の物質
 11、軍用のアクセサリー
 12、無線機器
 13、そのほか旅行目的にそぐわない物
 それにつけ加えて伝染病の汚染地域から来た人は入国が禁止されるという。

ここは「現代」の租借地!?

 東海港を19時に出港した「ヒュンダイ・クンガム号」は翌朝、韓国・北朝鮮国境の日本海を北上していた。水平線から朝日が昇る。北朝鮮の山々がはっきりと見えてくる。高城の沖合を通過し、7時、「ヒュンダイ・クンガム号」は真っ白な船体を長箭港の岸壁に横付けした。長箭港の港湾施設のすべては「現代」によってつくられた。
 ここは「現代」の租借地のようなものだ。
 金剛山観光を取り仕切っているのは「現代峨山」。峨山は韓国最大の財閥、「現代」の創業者、鄭周永の生まれ故郷の峨山里にちなんだものだ。峨山里は今の北朝鮮領内で金剛山北側の50戸ほどの集落だという。
 金剛山観光の現代商船の大型客船といい、金剛山観光拠点の長箭港の建設といい、「現代峨山」の会社名といい、「現代」の北朝鮮に寄せる想いの深さを強く感じるのだった。
 朝食後、韓国人観光客はバスに乗って金剛山に向かっていったが、我々は東海港のときと同じように13人のメンバー全員で協力し、13台のバイクを船から下ろした。
 緊張の北朝鮮入国。
 ここでは日本のパスポートは一切、必要ない。日本とは国交のない国だからだろうか。
 入国手続きは想像していたよりもはるかに簡単で、「北朝鮮ツーリング」の参加者リストに照らし合わせ、写真つきの北朝鮮入国許可証にポンとスタンプが押されるだけ。パスポートに入国印を押されることもなかった。
 こうしていよいよ「北朝鮮ツーリング」が始まった。

田植えをする若い女性たち

 長箭港から前に3台、後に2台の車に挟まれて、13台のビッグバイクが走りはじめた。高城と元山を結ぶ鉄道に沿った道に出る。道の両側にはフェンスが張られ、それこそ100メートルおきぐらいに若い兵士が立っている。彼らは上官からそう言われたからなのだろう、炎天下、誰もが無表情で、直立不動の姿勢で立っていた。
 ちょうど田植えの季節。若い女性たちが田植えをしていた。田植え機などの機械は一切見られない。全員が手植えだ。昔なつかしい光景。「早乙女」の言葉を思い出す。日本でもひと昔前までは若い女性たちが田植えをしていた。
 朝鮮半島では「南男北女(ナムナムプクニョ)」といわれるとおり、田植えをする女性たちは美人ぞろい。中には手を振ってくれる人もいる。バイクを走らせながら手を振りかえすと、すかさず車から降りてきた監視員に、
「手を振ってはいけない!」
 と、厳重注意された。
 田植え前の水田では男が牛に犂を引かせ、田を耕している。田を耕すのは男の仕事、田植えは女の仕事とはっきり分かれているようだ。
 道をはさんだ反対側は麦畑。そこはまさに「麦秋」の風景。実った麦が重そうに穂を垂らしている。麦刈りをしている畑もある。ソバ畑では白い花が咲き、ジャガイモの白い花も咲いていた。

「海金剛」の展望台に立つ!

 舗装が途切れ、ダートに入っていく。もうもうとした土ぼこりを巻き上げながら走る。やがて道幅が狭くなり、峠を越えて海岸に出た。そこは「海金剛」だった。
 金剛山の山並みが日本海に落ちる海岸一帯が「海金剛」。朝鮮半島随一の海岸美を誇る景勝地なのにもかかわらず、ここには何もない。日本だったらみやげもの店や食堂などがズラッと並ぶ観光地になっているようなところなのだが…。
 駐車場にバイクを停め、海岸にせり出した展望台に立つ。左手には白っぽい断崖が海に落ち、正面には岩礁がいくつか浮かんでいる。右手には韓国最北端の「高城統一展望台」が遠望できる。
「韓国一周」で「高城統一展望台」から「海金剛」を見下ろしたのは2000年9月。そのときの「今度は北朝鮮側から海金剛を見てみたい!」という願いが、わずか9ヵ月後に実現したことになる。ぼくの想いが通じたのだ。
 次に高城近くの三日湖に行き、展望台から「天女伝説」の湖を見下ろした。松林に囲まれたきれいな湖。その中央には小島が浮かんでいる。展望台から日本海は見えなかったが、山間の平地は一面の水田。山裾には家々が見えた。
 昼食は金剛山観光の拠点となる施設内のレストランで。ビビンバと北朝鮮風餃子。この北朝鮮風餃子というのは、超ジャンボな餃子だ。

バイクでの金剛山登山

 その日の午後は、金剛山の登山口までバイクで登った。
 急勾配、急カーブの狭い道。日本でいえば舗装林道のようなものだ。
 気温は30度をはるかに超える猛暑。それを1150ccのBMWのR1150RTで登っていくのだからたまったものではない。あっというまにエンジンはオーバーヒート気味になり、エンジンから発する高温の輻射熱で自分自身もオーバーヒート気味になってしまう。これならばカブの方がよっぽど楽だ。
 金剛山登山口の駐車場に到着。川原に降り、渓流の冷たい水を手ですくって顔を洗う。そこには清水も湧き出ていた。キリッとしたうまい水。
「ムル(水)、チョータ(good)!」
 一緒に飲んだ韓国人ライダーは声を上げて喜んだ。
 金剛山登山口から下り、金剛山温泉の湯に入る。
 北朝鮮の温泉に入れるとは思ってもみなかったのでカソリ、大喜び。大浴場と露天風呂の湯につかりながら、金剛山の山並みを一望。最高の贅沢だ。
 湯から上がると、北朝鮮製のアイスクリームを食べた。1個1ドル。これがなかなかの味だった。
 夕日が金剛山の山々に落ちていくころ、長箭港に戻り、現代商船「現代金剛(ヒュンダイ・クンガム)号」の船室でひと晩、泊まる。そこは北朝鮮にいながら、韓国そのものの世界。東の空からは満月が昇る。
 結局、北朝鮮をバイクで走れたのはこの日、1日だけだった。走行距離も100キロにも満たない87キロでしかなかった。
 だがぼくは、これを“偉大なる第一歩”だと思った。北朝鮮に風穴を開けたのだ。きっと近い将来、「北朝鮮一周」や「朝鮮半島縦断」ができるようになると確信した。


Comments

Comments are closed.

  • ひめさゆりバイクミーティング

    日時:2017年6月11日
       10:00〜14:00(予定)
     前夜祭 10日18:30〜
      ※前夜祭は会費5,000円
      (要事前申込)
    会場:会津高原南郷スキー場
       福島県南会津町
    ツーリングマップル東北7E-1
    今年も賀曽利隆のトークショーを開催予定。
    詳しくは公式フェイスブックをご覧ください。
  • 新刊紹介(賀曽利隆連載中)

    風まかせ No.62
    5月6日発売


    連載

    「焚火日和」

  • 最近の投稿

  • アーカイブ

  • カテゴリー

  • ツーリングマップル

    東北四端紀行・奥の細道紀行に
    最適なナビゲーター

    2017年版発売

    ツーリング情報満載の地図
    「ツーリングマップル」
    北海道東北関東 甲信越
    中部 北陸関西
    中国・四国九州 沖縄


    リング式、文字の大きな
    「ツーリングマップルR」
    北海道東北関東 甲信越
    中部 北陸関西
    中国・四国九州 沖縄

    発売に寄せて賀曽利のコメント
  • メルマガ「カソリング」

    「賀曽利隆の六大陸周遊記」配信中
    メルマガ購読・解除
     
  • おすすめの一冊


    風をあつめて、ふたたび。
    文:中部博 写真:武田大祐
    平原社

    「すばらしい写真の数々に感動!
    真っ赤な夕日を背にしたカソリ(P228〜P229)も登場しています。
    ぜひともご覧ください」(賀曽利隆)

  • おすすめの一冊


    「日本と違った世界を実際に見ることは、お金では決して買えない、かけがえのない体験です。その後の人生、生き方にもきっと、大きな影響を与えてくれるはずです。ぜひとも、一人でも多くのみなさんが、海外へ飛び出してほしいと願っています。もちろん、僕もまだまだ、走り続けますよ!」

    (賀曽利隆)

    7月24日発売
    360ページ
    出版社:ラピュータ
    価格:1800円+税