カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記

番外編 江の川の峠 4

投稿日:2011年1月31日

2010年 林道日本一周・西日本編

 1999年の「日本一周」でも、中国第一の大河、江の川には徹底的にこだわった。
 そのときのことを『日本一周バイク旅・上下巻』(昭文社・2000年4月刊)に書いているので、それを紹介しよう。



江の川流域マップ  みよし河川国道事務所「江の川何でも辞典」より
「江津→江津」の大河源流行

 島根県に入った益田からは、国道9号で浜田を通り江津へ。ここで中国地方第一の大河、江の川の河口を見る。
 江津からは江の川に沿って国道261号を走りはじめる。「江の川」の大河源流行の開始だ。
 ふつう、江の川クラスの川だと、下流に広々とした平野をつくる。ところがこの江の川はきわめて例外的な川で、いきなり両岸に山々が迫り、河谷に入っていく。江津市の隣の桜江町では曹洞宗の日笠寺の住職、山崎禅雄さんを訪ねる。山崎さんと奥さんとのうれしい再会だ。
 山崎さんは宮本常一先生が所長をされていた日本観光文化研究所(通称観文研)の所員で、ここで発行していた月刊誌「あるくみるきく」の編集長を長らく勤めていた。
 1989年3月31日に観文研が解散すると、故郷に戻り、日笠寺の住職をしている。それだけではなく、桜江町に完成した日本初の水の博物館「水の国」の館長もしている。
 山崎さんの日笠寺は「日本一周」には欠かせない。
 第1回目の「30代編日本一周」(1978年)、第2回目の「40代編日本一周」(1989年)のときにも立ち寄った。
 いつもと同じように、今回も突然の訪問だったのにもかかわらず、山崎さんには、
「カソリ君、よく来た!」
 といって大歓迎された。
 陶芸家の池田さんという方も来ていて、池田さんが日本海産のワカナとイカをさばいて刺し身にしてくれた。それを食べながらおおいに飲み、おおいに語り合った。さらに奥さんが「カソリ君、どんどん食べなさい」と肉をふんだんに焼いてくれた。最後に小豆飯を出してくれた。
 もう満腹だ。
 山崎さんの奥さんには、観文研時代、さんざんに迷惑をかけている。山崎さんと都内で夜遅くまで飲み、終電に乗り遅れると山崎宅にころがりこみ、真夜中の酒盛りをして夜明けに帰るということを何度も繰り返していたのだ。
 山崎夫妻との宴会は夜中の2時近くまでつづいたが、翌朝はいつもどおり、5時には起きる。自分でいってたら世話ないが、このあたりがカソリのすごさ。旅しているときは何時に寝ようと、ピタッと決まった時間に起きる。
 朝食をいただく。さすがに関東人の奥さんだけあって、朝食には納豆が出た。
 うまかったー! 
 東京を発って以来、初めて口にする納豆だ。
 西日本は東日本と違って、宿の朝食に納豆が出ることはほとんどない。毎日食べても飽きないくらい納豆好きなカソリだけに、西日本を旅して何が辛いかというと、朝食に納豆を食べられないことなのだ。
 山崎夫妻の見送りを受け、江の川の源流を目指して出発。時間は6時半だ。
 川本町の因原で国道261号から県道40号に入り、川本町の中心の川本を通り抜け、さらに江の川に沿って走りつづける。
 ずっと深い山の中。
 江の川の両側には切り立った山並みがつづく。邑智町(おおちちょう)の中心、粕渕で国道375号に合流。この国道375号で広島県の三次に向かう。やがて島根・広島の県境にさしかかる。
 この江の川は極めて稀な川。何が稀かというと、中央分水嶺をブチ破って流れているからだ。本来ならば、国道375号の島根・広島の県境あたりは中国山地の峠になっているはずで、そこが江の川の源のはずだった。
 このような川というのは、日本ではほかには四国第一の大河、吉野川の例があるくらいだ。名所の大歩危、小歩危というのは、吉野川が中央分水嶺の四国山脈を断ち割って流れている地点なのである。
 広島県に入った作木村では、「日本の滝100選」にもなっている常清ノ滝を見る。
 どうせたいしたことはないだろうとたかをくくっていた。というのは、その常清ノ滝は村役場のすぐ近くにあるからだ。
 ところがどうしてどうして、滝を見た瞬間、「あーっ!」と驚きの声を上げた。
 高さ126メートルの何段にもなって流れ落ちる繊細な滝だった。
 この常清ノ滝は国道375号からわずかに入ったところにあってきわめて行きやすい。カソリおすすめの、知られざるツーリングスポットだ。
 さらに江の川沿いに走り、三次盆地に入っていく。三次盆地の中心、三次に到着。江の川河口の江津からは113キロだった。
 三次はまさに江の川の町。布野川、神野瀬川、西城川、馬洗川、可愛川といった何本もの川がここで合流し、江の川となって、さきほどいったように中国山地をブチ破り、きわめて不自然な形で島根県に流れ出ていく。本来ならば、三次盆地からは広島湾に流れ出ていくのが自然な形なのだ。
 それはさておき、三次盆地に流れ込むそれぞれの川の源流の峠まで行ってみる。
 第1番目は布野川だ。
 国道54号で広島・島根県境の赤名峠へ。峠で引き返し、三次に戻った。
 第2番目は神野瀬川だ。県道経由で最後は国道432号を走り、広島・島根県境の王貫峠へ。そこでも同じように峠で引き返し、三次に戻った。
 三次に戻ったところで昼食だ。
 三次では、どうしても“ワニ”を食べたかった。
 ワニといっても、アマゾンやナイルにいるワニではない。日本海から入ってくるフカのことをワニといっている。三次駅前に停まっているタクシーの運転手さんに聞いた「むらたけ」という店に行き、ワニの刺し身を食べた。正直いってそれほどうまいものではなかったが、以前から食べたかったものだけに、
「おー、これがワニか!」
 といった、飛び上がりたくなるような感動があった。
 おもしろいことに、広島県内でもワニを食べるのは三次から庄原、世羅にかけての江の川の流域だけで、瀬戸内でワニを食べることはない。ワニはまさに広島県内の江の川を象徴するかのような食材だ。
 さて、第3番目は西城川だ。
 国道183号から314号に入り、広島・島根県境の三井野原へ。県境の峠に名前はついていないが、ぼくはこの峠を「三井野峠」と呼んでいる。峠には「広島県の江の川水系と島根県の斐伊川の水系を分ける分水嶺 標高727m」の案内板が国道に掲げられている。
 峠を下った島根県側にはループ橋の“おろちループ”がある。この県境の三井野峠で引き返し、三次に戻った。
 第4番目は馬洗川だ。国道184号で世羅町の名無し峠へ。このあたりはゆるやかな高原なのでどこが峠なのかみきわめにくいが、そこは“峠のカソリ”、国道と広域農道の交差するあたりが峠だなとすばやくみきわめ、三次に戻った。
 最後が可愛川だ。この可愛川が江の川の本流になる。国道54号を南下し、県道経由で千代田町へ。日が暮れたところで、千代田温泉の1泊2食2500円という日本一安い温泉宿「千代田温泉」で泊まった。
 翌朝、千代田からは国道261号で可愛川源流の、広島・島根県境の中三坂峠を越える。峠のトンネルを抜け、峠を下るとそこは川本町の因原。目の前を江の川の本流がとうとうと流れている。
 江の川の源流というのは、なんとも不思議な気がするくらいに河口に近い。もう一度、日笠寺に寄り、山崎夫妻に別れを告げ、国道261号で江津に戻った。
「江津→江津」は569キロ。江の川はさすがに中国第一の大河。569キロという走行距離の長さが、その流域の広さを示していた。
 江の川の大河源流行はなんともおもしろいものだった。
(昭文社刊の『日本一周バイク旅4万キロ・上巻』より)


Comments

Comments are closed.

  • 最近の投稿

  • 新刊紹介(賀曽利隆連載中)

    アンダー400 No.64
    6月6日発売


    賀曽利隆の日帰り林道ガイド

    御殿場編

    風まかせ No.62
    5月6日発売


    連載

    「焚火日和」

  • アーカイブ

  • カテゴリー

  • ツーリングマップル

    東北四端紀行・奥の細道紀行に
    最適なナビゲーター

    2017年版発売

    ツーリング情報満載の地図
    「ツーリングマップル」
    北海道東北関東 甲信越
    中部 北陸関西
    中国・四国九州 沖縄


    リング式、文字の大きな
    「ツーリングマップルR」
    北海道東北関東 甲信越
    中部 北陸関西
    中国・四国九州 沖縄

    発売に寄せて賀曽利のコメント
  • おすすめの一冊


    風をあつめて、ふたたび。
    文:中部博 写真:武田大祐
    平原社

    「すばらしい写真の数々に感動!
    真っ赤な夕日を背にしたカソリ(P228〜P229)も登場しています。
    ぜひともご覧ください」(賀曽利隆)

  • おすすめの一冊


    「日本と違った世界を実際に見ることは、お金では決して買えない、かけがえのない体験です。その後の人生、生き方にもきっと、大きな影響を与えてくれるはずです。ぜひとも、一人でも多くのみなさんが、海外へ飛び出してほしいと願っています。もちろん、僕もまだまだ、走り続けますよ!」

    (賀曽利隆)

    7月24日発売
    360ページ
    出版社:ラピュータ
    価格:1800円+税