カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記

アイヌ語地名(その1)

投稿日:2009年11月20日

北海道の地名の8割以上がアイヌ語に由来!!

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地球岬から見る駒ヶ岳


突き出た頭、絵鞆岬

 北海道屈指の重工業都市であり港湾都市でもある室蘭には、室蘭港口にかかる白鳥大橋を渡って入った。そして絵鞆岬へ。太平洋と内浦湾(噴火湾)を分けるようにして突き出た絵柄半島の先端に位置している。
 絵鞆半島の海岸線は北海道遺産にもなっているアイヌ語地名の宝庫。
 絵柄岬の展望台に立つと、内浦湾の海岸線を一望する。活火山の有珠山や昭和新山が見える。さらには対岸の駒ヶ岳もよく見える。
 絵柄岬周辺の絵柄は室蘭発祥の地。アイヌ語の「突き出た頭」、つまり岬を意味するエンルムに由来する地名だという。江戸時代初期に開かれてからというもの、明治初期まではこの地方をいいあらわす地名で、「絵鞆に行く」といえば、それは室蘭に行くことだった。

 岬に立つ案内板には、次のように書かれている。

 慶長年間(1596年~1615年)の初めに松前藩の直轄所として開かれ、交易所で通行人の宿泊もできた運上屋が置かれた。夏季にはアイヌとの交易をするため、松前藩の弁財船が絵鞆の澗(ま)に出入りした。

 絵鞆岬に近いチヤシ遺跡や貝塚からは、縄文早期(約9000年前~6000年前)の出土品が見られるという。
 絵柄岬から地球岬にかけての海岸線はすごい。
 重工業都市の室蘭がすぐ近くにあるとはとても思えないような断崖絶壁が連続する。
 人を寄せつけない険しさで、銀屏風、ハルカラモイ、ローソク岩、マスイチの名所が連続している。

 テレビ塔のある測量山の山頂に登ると、展望台からは室蘭港に面した室蘭の市街地を見下ろせる。

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絵鞆半島先端の絵鞆岬
絵鞆岬の展望台


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絵鞆岬から見る室蘭港口
銀屏風


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ハルカラモイ
ローソク岩


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マスイチ
測量山から見下ろす室蘭


断崖絶壁、地球岬

 チャラツナイの断崖を見、人気の地球岬に立った。
「地球」の名前にひかれてやってくる人たちでにぎわう岬には、その名にふさわしく電話ボックスも水のみ場も地球儀を模している。
「地球広場」と名づけられた展望台の広場の直径は12・8メートルで、地球の100万分の1のスケールだという。そんな地球広場には、モザイク模様の世界地図が描かれている。室蘭がその中心になっている。
「世界の中心は室蘭!」
 と、声高にいっているようだ。
 その気宇壮大さがたまらない。
 地球岬の安山岩が露出した高さ100メートル以上の断崖は目もくらまんばかりで、垂直に、ストンと海に落ち込んでいる。
 岬の先端に立つ灯台のあたりは、アイヌ語で「テケウ」(断崖絶壁)と呼ばれていたという。それを「地球岬」にしたところに当て字のうまさを感じる。岬にはその名前にひかれて行ってみたくなるところが多分にあるからだ。もっともアイヌ人にとっては腹の立つ話ではあるが…。
 さらに断崖は金屏風、トッカリショへとつづく。

 金屏風に立つ案内板には、次のように書かれている。

 赤褐色を帯びた断崖に太陽が映えるときは、金屏風を立て連ねたように見えることから、この名を呼ぶようになった。金屏風付近にはニオモイ、アトカニと呼ばれるところがある。ニオモイは小さな入江をなしており、時化どきになるとおびただしい漂流木がたまるのでそう呼ばれたといわれ、寄木湾という名もある。アトカニは『われら矢を射る所』という意味。アイヌたちはこの難所を通るとき、魔除けのためにそこの崖や岩などに矢を射るという古くからの習慣があった。

 トッカリショに立つ案内板には次のように書かれている。

 トッカリショというのはアザラシの岩という意味で、いまは岩ではなく漁場そのものをそう呼んでいる。冬季になるとアザラシが室蘭近海に群遊してきたが、なかでもこの辺には一番多く寄り集まったところから、トッカリショと呼ばれるようになったといわれている。かつては鮭の漁場であり、万延元年(1860年)ごろ、モロラン(崎守町)で旅人宿と漁業を営んでいた藤谷良吉が漁場を開いたことに始まる。
 神秘的な月明かりの夜、魔の神が日の神の眠っているすきに盗んだ『光の衣』を着て夜空にあらわれたため、2つの月が光り輝いた。アイヌたちは異変が起こったと騒ぎ立てた。それを見て文化の神オイナカムイは魔の神の仕業だと見破り、銀の弓で銀の矢を放ち、魔の神を射落としたので、再び平和を取り戻したというトッカリショにまつわる伝説が伝わっている。

 見所満載の絵鞆半島の断崖はイタンキ岬で終る。

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チャラツナイ
地球岬


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金屏風
トッカリショ


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イタンキ岬
イタンキ岬の漁港


うずくまったネズミ、襟裳岬

 さらにこのあと、襟裳岬、愛冠岬、霧多布岬と立ち寄って日本本土最東端の納沙布岬まで行ったが、これらの岬はすべてアイヌ語に由来している。
 襟裳は「エンモリ」(うずくまっているネズミの形)、愛冠は「アイカプ」(矢の届かない断崖)、霧多布は「キイタップ」、納沙布は「ノッサム」(岬のかたわら)。
 北海道の地名の8割以上がアイヌ語に由来するといわれているが、とくに多いのは川や沢を意味するナイ(内)とベツ(別)。「ナイ」は小川、「別」は大川を意味するようだ。ナイとベツの違いでは、アイヌ文化の研究家であり、アイヌ人としては初めて国会議員になった萱野茂氏が興味深いことをいっている。

 同じ北海道でも、ナイの多い地方とベツの多い地方があり、その分布を通じて、同じアイヌ語種族のなかにも、いわば北方系と南方系のものがあったことがうかがえるようである。ナイとベツの多さはまた、川に大きく依存して暮らしていたかつてのアイヌの生活がうかがえる。川は鮭や鱒を与えてくれるだけではない。山奥へ狩りに行ったり、遠くの地方と交易をしたりするために、なくてはならない交通路でもあった。

『あるく みる きく』第80号より
※あるく みる きく:カソリが師と仰ぐ、日本を代表する民俗学者・宮本常一が主宰した日本観光文化研究所から発行された旅雑誌。1967(昭和42)年から1988(昭和63)年まで発行された。

■宮本常一の本

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襟裳岬


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「襟裳岬」の歌碑
襟裳岬の灯台


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愛冠岬
霧多布岬


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霧多布岬の断崖
霧多布岬の灯台


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霧多布岬の夕日
納沙布岬


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納沙布岬の灯台
納沙布岬から見るゴヨウマイ海峡


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納沙布岬から見る北方領土の島々
納沙布岬から見る北方領土の島々


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